国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2023-06-20 10:50

アメリカ政府の債務上限引き上げ問題解決:いつも通りの茶番

古村 治彦 愛知大学国際問題研究所客員研究員
 アメリカ政府の債務上限引き上げ問題は解決された。アメリカ連邦議会で債務引き上げ法案が賛成多数で可決した。現在のアメリカ連邦議会は、連邦下院は共和党、連邦上院は民主党がそれぞれ過半数を握っており、ねじれている状況だ。そうした中で、「先行き不透明、アメリカ国債のデフォルトが起きる可能性がある」というマスコミの報道もあったが、いつも通りに決着する茶番だった。しかし、この茶番はアメリカにとっては深刻でかつ重要な茶番であり、債務上限が引き上げられなければデフォルトになり、アメリカ発の世界恐慌ということになりかねない。こうして債務はどんどん積み上げられ、総額は約32兆8250億ドルとなっている。1ドル=140円で計算すると、4595兆5000億円となる。日本のGDPが約5兆ドル(約700兆円)であるから、およそ7倍の規模である。

 今回の債務上限引き上げ問題に関しては、民主、共和両党の連邦議員たちが交渉役となり、どこまで妥協できるかということを話し合った。最後は民主党側のジョー・バイデン大統領、共和党側のケヴィン・マッカーシー連邦下院議長(カリフォルニア州選出、共和党)がトップ会談で決着をつけた。民主党側は「大事な部分は歳出削減をせずに債務上限引き上げができた」、共和党側が「歳出削減を認めさせることができた」という成果を強調できる形となった。連邦下院(定員435議席)は共和党が222議席で過半数を握り、民主党が213議席を持っている。過半数は218議席だ。今回の債務上限引き上げ法案は、賛成314(共和党:149;民主党:165)、反対117(共和党:71;民主党:46)、棄権4(共和党:2;民主党:2)という採決結果で可決された。その後、連邦上院(定数100議席)に送られた。連邦上院は民主党が48議席、民主党系の無所属が3議席、共和党が49議席という構成で、民主党が過半数を握っている。採決は、賛成63(共和党:17;民主党:44;民主党系無所属:2)、反対36(共和党:31議席;民主党:5議席)、棄権1(共和党:1)という結果で、法案は可決した。ジョー・バイデン大統領が署名することで法律が可決成立ということになる。

 バイデン大統領と民主党としては債務上限引き上げを行いたいし、共和党の主流派も口では威勢の良いことを言っていても自分たちが政権(大統領)を担う際に債務上限問題に直面する可能性もあるので、裏では当然賛成となる。ある程度政府の支出を減らす形を見せるように求めて、それができたら妥協して賛成しましょうという出来レースである。民主党内では主流派と反主流派(進歩主義派)、共和党内では主流派と反主流派(トランプ派、フリーダム議連)という分裂が起きて、民主党と共和党の主流派同士が手を握って賛成し、民主、共和両党の反主流派が反発して反対という構図になる。これは、民主化研究における非民主政府対民主化勢力の対立から民主化へ向かう道筋と同じ構図である。

 共和党の反主流派は「歳出削減の規模が小さすぎる」から反対、民主党の反主流派は「歳出削減の規模が大きすぎる」から反対ということになった。民主、共和両党の反主流派は、それぞれの立場が大きく違っているが、共通している点もある。それはアメリカの対外的な役割の縮小だ。簡単に言えば、「アメリカは帝国であることを止めよう」ということだ。両者はウクライナに対する過剰な支援に反対しているし、アメリカ軍の海外展開にも反対している。アメリカ国内問題解決を第一にする、アメリカ国民の生活を第一にする、「アメリカ・ファースト」の立場であり、これこそがポピュリズムの立場である。既存のアメリカ政治に反対する反主流派があってこそ、アメリカ政治は「らしさ」を保っている。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム