国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2023-05-22 16:35

G7 結束固め新興国へ関与強化

鍋嶋 敬三 評論家
 先進7ヶ国(G7)首脳会議(広島サミット)は23年5月21日閉幕、その成果は国際秩序を揺るがす中国、ロシアの挑戦に対抗して自由・民主主義国陣営のG7 が結束を固め、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国への関与を強めたことだ。日本は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」(国家安全保障戦略)に直面する。東・南シナ海で一方的な現状変更の動きを強め、ロシアとの戦略的な連携を強化して「国際秩序への挑戦を試みている」中国、ウクライナ侵略戦争1年3ヶ月のロシアは「国際秩序の根幹を揺るがす」。北朝鮮の「最大限のスピードで強化する」核戦力とミサイル開発は「従前より一層、重大かつ差し迫った脅威」となっている。「歴史的なパワーバランスの変化」が生じている国際秩序への挑戦に対処するには同盟国だけでなく有志国との連携強化が不可欠だ。その中核となるのがG 7である。

 しかし、それだけでは足りない。中露に対して中立的な立場をとる新興・途上国の大きな固まりがパワーバランスに大きく影響する以上、これら諸国をいかに引きつけるかがG7 の課題になってきたからである。中露が連携を強める一方、米欧間では主張がかみ合わないことがしばしばだ。米国のトランプ前政権は欧州と歩調を合わさず、欧州もフランスのマクロン大統領の欧州防衛のための「戦略的自律性」論のように独自の主張がある。欧州は経済的な関係の深さからも対中露制裁では米国に必ずしも同調しない。中露は米欧の隙間を狙い、分断の拡大を画策、食料やエネルギー、兵器供与などで歴史的にも関係の深いグローバルサウスへの働き掛けによって、国連の対露制裁決議では多数の反対や棄権が出た。放置すれば国際秩序が崩れてしまうという危機感でG7 が一致した。ウクライナのゼレンスキー大統領はG7の最中に広島入りしG7だけでなく、インドやブラジルなどグローバルサウス諸国との拡大会合にも同席し、ロシアの「残虐な侵略戦争」が「全世界への脅威」であることを直に伝えることに成功した。「ゼレンスキー効果」は先進国とグローバルサウスをつなぐ象徴として広島サミット最大の成果と言っても良いだろう。G7首脳はウクライナに対して「揺るぎなき支援」を再確認した。米国が首脳会議中にF16 戦闘機の同盟国経由の供与を承認したのもその表れだ。

 「核軍縮・不拡散の努力の重要性」も再確認した。首脳がそろって原爆慰霊碑に献花、原爆資料館を視察したのはかつてないことで、ロシアによる核の脅しの重大性を身を以て感じる機会になった。岸田文雄首相が閉幕後の記者会見で核軍縮の「広島ビジョン」について熱弁を振るったのも、手応えを実感したからであろう。地域情勢では中国に関する記述が注目された。「東・南シナ海への深刻な懸念」の表明は従来通りだが、その前段で「建設的かつ安定的な関係構築の用意」があり、「国際的な課題で協力する必要」を明記した。制裁一辺倒ではなく対立と協調のバランスに腐心した様子がうかがえる。

 経済安全保障についても共同文書をまとめたのはG7 サミットで初めてだ。中国を念頭に「経済的威圧を抑止し対抗する」ため、重要物資の供給網(サプライチェーン)構築の方針を明記した。「経済的依存関係を武器化する」リスクに対して、新興国とも連携する構図だ。G 7 と同時期に中国がロシアの裏庭とも言える旧ソ連構成国の中央アジア5ヶ国首脳を中国に集めて首脳会議を開き、影響力拡大を誇示した。G7はウクライナ支援をはじめ食料、エネルギー、供給網のリスク拡大、信頼できる人工知能(AI)の実現に向けた国際ルール作りなど広範な分野を含む国際秩序の安定・維持にどう向き合うか。サミット合意をいかに結実させることができるか、岸田首相はじめG7首脳の責任は大きい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム