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2023-03-23 14:40

キーウ電撃訪問と日本の役割

鍋嶋 敬三 評論家
 岸田文雄首相が3月21~22日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問、ゼレンスキー大統領と会談した。二国間関係を「特別なグローバル・パートナーシップ」に格上げし、「ロシアの戦争遂行を抑制するため、制裁を維持・強化することが不可欠」と第三国の協力を呼び掛ける共同声明を発表した。同時期の習近平中国国家主席の訪露、プーチン大統領との会談と重なり、国際秩序を力で変更しようとする勢力と法の支配に基づく国際秩序を守る勢力の対立が際立つ結果となった。ウクライナとの共同声明では「ロシアの対ウクライナ侵略が法の支配に基づく国際秩序の根幹を損ない、主権および領土の一体性の原則という国連憲章の重大な違反」として、ロシア軍の「即時無条件の撤退」を求めた。

 岸田首相は20日に日米豪印4ヶ国のQuad(クアッド)の一員であるインドを訪問した。モディ首相との会談で法の支配に基づく国際秩序の堅持を確認し、エネルギーや食料供給などの国際課題で先進7ヶ国(G7)と途上国などの20ヶ国・地域(G 20 )の連携で一致したばかりである。岸田首相は安全確保のため予定を変更してインドから民間チャーター機でウクライナに直行したのであった。首相は5月のG7 広島サミットにモディ首相を招待、法の支配に基づく国際秩序、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国との関係強化の2つの視点から国際社会が直面する課題を取り上げる方針を説明してG7 とG20 の協力で合意した。

 このインド、ウクライナ連続訪問で日本が果たす役割が明確になった。第一に、日本はG7 の今年の議長国、そして国連安全保障理事会非常任理事国としてウクライナの主権と領土の完全な回復、そのための同国の努力への支持と継続的な支援の国際的広がりを推進することである。第二に、そのためにも対露制裁の国連決議に棄権や反対に回る国が多く出たG20など南半球を中心とした「グローバルサウス」諸国の理解に努める。日本は米欧とグローバルサウスをつなぐ役割を果たしうる立場を大いに生かすべきである。「南」の代表格を自任するインドへの訪問の狙いはそこにあったと言ってよい。

 第三に日本によるウクライナ支援の強化である。ゼレンスキー大統領との会談で岸田首相は厳しい対露制裁とウクライナ支援のためG7 の結束維持を約束した。制裁や兵器供与で温度差がある米欧諸国の調整も首相にとっては重要な責務だ。日本は殺傷能力のある武器援助は出来ないが、戦争被害の復旧や復興に太平洋戦争や大規模災害の経験から提供出来る知見が豊富にある。日本政府は既に総額71億ドルに上る財政、人道などの支援を提供した。新たに4億7000万ドルの無償支援、北大西洋条約機構(NATO)信託基金を通じた殺傷性のない装備品支援に7000万ドルの拠出も決め、戦後の復旧・復興へのコミットメントも再確認した。

 NHK がウクライナの調査機関と2月に行った意識調査では、日本が支援のため国際社会で何が出来るかの質問に対しては「復興支援」が33%で最も多く、次いで「欧米の軍事支援強化の促進」(27%)、「ロシアへの制裁強化」(19%)だった。NHK報道によれば、日本政府は既に国際協力機構(JICA)を通じて復旧・復興に向け224億円余の無償資金協力を決めており、破壊された電力施設の修復や地雷、不発弾の処理などの支援を進めている。

 第二次大戦後初めての欧州における大規模侵略戦争に対して日本は西側諸国と一体になって闘う外交の基本姿勢を明確にした。国連安全保障理事会の常任理事国自らが国連憲章に対する重大な違反という国連創設以来の事件を看過しては国際秩序は保たれない。これを正すために、欧州大西洋からインド太平洋まで安全保障は一体との認識を世界が共有するようG7 の結束、グローバルサウスへの働き掛けを強めなければならない。そこに日本の役割がある。
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