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2022-10-31 16:04

バイデン新安保戦略は機能するか

鍋嶋 敬三 評論家
 米バイデン政権の「国家安全保障戦略(NSS)」(22年10月12日公表)は中国やロシアによる核を含めた脅威の増大に対処する指針である。新たな国際秩序の構築を目指す中露の動きを止められるのか、侵略の脅威に対し同盟国や有志国を結集する「統合抑止」が有効に機能するかが課題だ。
 
 21年3月の「暫定指針」では、中国は「安定した開かれた国際システムに継続的な挑戦を仕掛ける潜在能力を持つ唯一の競争者」、ロシアは「混乱をもたらす役割を演じようと決意」していると規定した。新NSSでは、中国は「国際社会を作り替える意図を持ち、そのための経済、外交、軍事、技術の力を備えた唯一の競争者」、ロシアは「国際秩序の主要な要素を覆す目的を持って帝国主義的外交政策を追求してきた」とその脅威のレベルを一気に上げた。変化の背景には中国の台湾統一に向けた攻勢の強化、ロシアのウクライナ侵略がある。

 サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は記者会見で国際秩序の形成をめぐる大国間競争及び気候変動など国境を超えた課題という二つの戦略的挑戦を挙げ、「我々は決定的な10年間に入った」と述べた。その対応で中国とロシアに差を付けた。「唯一の競争者」の中国は「競り勝つ」相手、「非常に危険な」ロシアは「抑制する」と対応を分けた。中露は連携を深めているが、その挑戦は全く異なり米国を脅かす本命は中国とみているためだ。
 
 米国は「転換点に立って」おり、「米国が今取る政策が将来の競争上の立場を決定する」と厳しい見方を示した。新NSSで注目すべきは台湾政策ならびに「統合抑止」である。暫定指針では台湾について「我々は長年のコミットメントに沿ってパートナーである台湾を支持する」と短く2行で済ませたが、NSSでは33行にわたって詳述した。

  そして米国の「一つの中国政策」の内容として台湾関係法、(米中間の)「三つの共同コミュニケ」、武器売却を決めた「六つの保証」を列挙、「米国は台湾関係法の下で台湾の自衛を支持し、台湾に対する武力や威圧に抵抗するため米国の能力を保持するという約束を確認」したのである。このような変化は習近平中国共産党総書記が異例の3期目続投を決めた党大会の活動報告で「祖国の完全統一は必ず実現」する決意を表明し、「武力行使の放棄の約束をせず」「あらゆる必要な措置を取る」という強硬姿勢に対応したものだ。

 米戦略は統合抑止(Integrated Deterrance)に依存している。目的は潜在敵国に「敵対行動のコストが利益を上回ることを確信させること」(NSS)にある。軍事、非軍事の領域、地域、さまざまな紛争の範囲を超え抑止力を統合する。オースチン国防長官はNSSに関連する「国防戦略(NDS)」の発表(10月27日)に際して「統合抑止は米国だけでなく同盟国や有志国とのネットワークをより緊密に動かすことを意味する」と述べた。
 
 インド太平洋では豪英米3ヶ国のAUKUS(オーカス)、日米韓3ヶ国協力、欧州では北大西洋条約機構(NATO)を含む協力関係を挙げた。日米、米韓、米豪の同盟国を結んだネットワークもある。日米豪印のQuad(クアッド)や主要7ヶ国(G7)の結束も政治的に重要である。

 「決定的に重要な次の10年間」を展望すると、中国は2035年までに国防と軍隊の「近代化」を実現する目標を立ている。2027年までに台湾武力解放に乗り出すという米軍の観測もあり、最近では24~25年に早まるという見方さえある。2028年には中国の国内総生産(GDP)が米国を追い越すという試算もある。コロナ禍やエネルギー価格の高騰など世界経済の不確実な要因があるが、中国の追い上げに対する米国の「焦り」は強い。

  米国は11月8日に中間選挙を迎える。下院を野党共和党が制すれば「決まらない政治」がまたもワシントンを支配する。社会の分断が強まり政治の混迷は世界における米国の指導力発揮の力を奪う恐れが強い。中国に「競り勝つ」という戦略目標を立てたバイデン政権だが、その前に深刻な内政の基本課題を解決することが最大の挑戦である。
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