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2022-09-26 07:20

米中つばぜり合いの太平洋島嶼

鍋嶋 敬三 評論家
 2枚の写真がある。南太平洋・ソロモン諸島のソガバレ首相が2019年10月の訪中時に中国の李克強首相と両国国旗を背景にした写真。もうひとつは2022年9月9日パラオのウィップス大統領と岸田文雄首相の会談時のもの。ともに太平洋島嶼国だが対中、対日関係では対極的な動きを見せた。ソロモンは2022年4月に中国と安全保障協定を締結したが、内容が非公開のため懸念が高まった。8月には日米激戦地のガダルカナル島の戦闘開始80周年記念式典に日米豪の閣僚級が参加したが、演説するはずのソガバレ首相が突如欠席した。ソロモンの主要貿易国中国にソガバレ政権が急速に傾斜、欠席も中国への配慮との見方がある。パラオは第一次世界大戦の敗戦国ドイツから日本がミクロネシア(南洋群島)を国際連盟の委任統治を受けた歴史から親日国として知られる。第二次大戦後は米国の信託委任統治領になったが、1994年独立。米国との「自由連合盟約(コンパクト)」で米国の財政支援を受け、国防・安全保障を米国に委ねている。台湾と国交を保つ地域で四つの国の一つだ。

 第二次大戦後も米国や英国、豪州の影響下にあった太平洋島嶼国だが、巨大な経済力をバックにした中国の外交攻勢で台湾承認の取り消しが続き、中国と国交があるのは10ヶ国に増えた。中国による太平洋進出の背景には米国のトランプ前政権の太平洋、東南アジア軽視があった。南シナ海ではベトナム、フィリピンなどとの領有権争いで中国は岩礁を次々埋め立て、人工島を造成して港湾、滑走路、格納庫、レーダー施設など軍事基地化を推し進めた。南シナ海を支配することで台湾侵攻の際、グアムを含む第2列島線まで米軍を寄せ付けない軍事優勢を確保する狙いだ。その先、ハワイとオーストラリアを結ぶ太平洋諸島を新たなターゲットとして影響力拡大に注力している。

 その表れがソロモンとの安保協定である。台湾と断交、中国と国交樹立からわずか2年半後には協定を結んだ。さらに中国は22年5月にフィジーで国交のある10ヶ国の外相会合をオンラインで開いて安保協定の締結を目指したが、各国間で懸念が深まり成立に至っていないと伝えられる。米バイデン政権も座視していたわけではない。22年2月に発表した「インド太平洋戦略」で「関係強化すべき地域」として台湾と並んで「太平洋島嶼」を挙げ、その強靱性確保のため気候変動、インフラ、海上保安などの支援をうたった。さらに「外交プレゼンスの拡大」も明記、7月には中国と国交があるキリバス、トンガに大使館の設置を決めた。この地域には豪、フィジーなど16ヶ国2地域の協力の場として「太平洋諸島フォーラム(PIF)」があるが、キリバスが7月の首脳会合直前に脱退を表明。これも中国の意向が働いたといわれる。

 揺れ動く情勢にバイデン政権は日米英豪ニュージーランド5ヶ国による「ブルーパシフィックにおけるパートナー(the Partners in the Blue Pacific)」という新たな枠組を創出した。9月22日の外相会合には欧州、アジアを含め12ヶ国が参加したが、中国の名前はなかった。ブリンケン国務長官は気候変動、インフラ強化など経済、社会開発に焦点を合わせた「諸国の優先課題、将来の希望に耳を傾けたい」と語った。安全保障分野を慎重に避けたのは「中国包囲網」ととられない配慮からだ。日本政府は1997年以来「太平洋・島サミット(PALM)」を3年ごとに日本で開催、21年7月の第9回首脳会合では菅義偉首相が「太平洋のキズナ政策」を発表した。「法の支配に基づく海洋」「透明性、債務持続可能性を重視した質の高いインフラ支援」を推進する方針を掲げ、中国による「債務の罠」に陥らないための配慮を訴えた。太平洋地域が南シナ海と同じく日本にとって死活的なシーレーンであることは80年前のミッドウェー海戦当時と変わらない。日本が米英豪など民主主義国とともに、この地域への存在感、働き掛けを強化する必要性はますます高まっている。
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