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2022-04-23 19:19

ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」沈没に関して

古村 治彦 愛知大学国際問題研究所客員研究員
 ロシア黒海艦隊の旗艦である誘導巡行ミサイル巡洋艦(guided missile cruiser)「モスクワ」が沈没した。ウクライナ軍が発射した2発の対艦ミサイル「ネプチューン」が命中し、船内で火災が発生し、それが搭載していた弾薬などに引火して爆発し沈没したと見られている。モスクワは乗組員500名、全長約180メートル、排水量1万2000トンで、これほどの大きな戦闘艦が攻撃を受けて沈没したのはアルゼンチンとイギリスの間で行われたフォークランド紛争以来のことだそうだ。「モスクワ」は旧ソ連時代の1983年に就役した艦船であり、そのシステムが時代遅れであったということが指摘されている。
 
 ウクライナが使用した「ネプチューン」ミサイルは旧ソ連時代のミサイルが基盤となっているそうだ。2021年に配備されたもので重量は870キログラム、試験では100キロメートル先の目標に命中させることに成功したということだ。どれほどの飛行距離があるのかは不明だ。「ネプチューン」は、排水量5000トンまでの水上艦艇を撃破できるように設計されているということであり、「モスクワ」の排水量1万2000トンはその対象外であるが、今回2発命中したことで致命的なダメージを与えることに成功したと考えられる。専門家たちは「モスクワ」の防空システムの結果とダメージコントロールの杜撰さを指摘している。簡単に言えば「守りに弱かった」という点を指摘している。旧ソ連型の巡洋艦は、攻撃は強いが防御は弱いという特徴があるようだ。旧ソ連が開発したミサイルを基盤としたミサイルでロシアの軍艦が沈没するとは何とも皮肉な話である。
 
 今回沈没した「モスクワ」の任務については、アメリカ国防総省は「ロシア黒海艦隊の防空を担っていた」と発表しているが、専門家たちは海上からのウクライナ国内の物流センターや飛行場への攻撃を担当していたとしている。防空を担当していたということであれば、その要が沈没させられるということになると、ロシア黒海艦隊はより安全な場所に退避し、防空体制の再構築を図らねばならず、その活動は停滞することになるだろう。
 
 今回の「モスクワ」沈没によって「水上艦の脆弱性」が明らかになった。アメリカが誇るイージスシステムであればネプチューンミサイルからの攻撃を退けることができるようだが、中国が持つ対艦ミサイルの性能はネプチューンミサイルを凌駕するものであるようで、米中間で衝突が起きた場合にはアメリカ艦隊はその射程外で活動をすることになると指摘している専門家もいる。今回の「モスクワ」沈没は米中両国にとって教訓となる。ロシア軍がウクライナ東部と南部に力を注ぐという転換を行っている中で、ロシア黒海艦隊の活動が停滞するということはロシアにとっては大きな痛手ということになるだろう。戦争は長引き、双方の犠牲者がどんどん増えていくということになりそうだ。
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