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2022-01-24 07:13

バイデン「大満足」は日本の対露同調

鍋嶋 敬三 評論家
 岸田文雄首相とバイデン米大統領の首脳テレビ会談(1月21日)では日米豪印4ヶ国(QUAD=クアッド)首脳会議の日本開催、閣僚レベルの日米経済協議委員会(経済版2+2)の立ち上げ合意など実質的な内容が評価される。米政府高官は「大統領が大変満足している」と語った。ロシアによる「ウクライナ侵攻」への対策に没頭しているバイデン氏に対し岸田首相が「明快で確固たる米国支持の決意を示した」からである。プーチン露大統領は米国に対して対ロシア、中国の二正面作戦を強いており中露の軍事的連携の強化、イランや北朝鮮などを巻き込んだ反米戦線の構築が進む。米国内の分断で政局が混迷する中、権威主義国家群と対峙するため同盟国で安全保障の要でもある日本の協力の意味は実に大きい。米国が強力な対露制裁を科せば、日本はG7の一員として同調することが当然のこととして米国から期待される。日本政府は経済協力をセットにした北方領土交渉のあり方を含め、根本的な対露政策の見直しを迫られる展開を想定しているのだろうか?

 バイデン大統領の訪日とQUAD(クアッド)の開催は4月~5月ころが予想されるが、バイデン政権はこれを「4ヶ国の協力を活気づける新たなイニシアティブ」(高官発言)と位置付けた。それは「東南アジア諸国連合(ASEAN)への緊密な関与」が大きな焦点になるからだと言う。QUADとともにバイデン政権は米英豪の安全保障枠組(AUKUS=オーカス)を立ち上げた。政治的にも経済的にも中心となる地域の東南アジアを取り込むことが対中戦略の軸になる。中国は親中派のカンボジアやラオス、ミャンマーなどを取り込むことに腐心しており、ASEANの分断が地域組織としての一体性に影を落としている。トランプ前政権の4年間、アジアを無視して来た付けをバイデン政権が払う羽目になったのだ。

 巻き返しに出た米国はブリンケン国務長官が2021年12月14日、インドネシアでの政策演説で「世界の運命はインド太平洋に掛かっている」と米国の認識と再関与を改めて宣言、地域の繁栄とともに安全保障の強化を柱に掲げた。同盟国と友好国の持つ力を結集した「統合抑止戦略」の採用をうたい、「最適の例」としてAUKUSを挙げた。バイデン政権はワシントンにASEAN首脳を招く構想も明らかにしている。米国は地域への関与を深めようと「インド太平洋経済枠組(IPEF)」構想も打ち上げた。貿易促進、デジタル経済、技術、強靱な供給網、脱炭素、クリーン・エネルギー、インフラ、労働基準などを含む包括的な組織(ブリンケン長官)というが、全容は明らかでない。米国はオバマ政権が主導した環太平洋経済連携協定(TPP)からトランプ政権が脱退、引き継いだバイデン政権でも政権基盤の労働組合の強い圧力で復帰への動きはない。

 オバマ政権で「アジア・リバランス(再均衡)」やTPPを推進した元高官らは最近の論文でバイデン政権一年間の成果を全体として高く評価したが、「経済分野こそ真の闘争の場」として経済戦略の見直しを求めている。地域の諸国は既に発効したTPPやRCEP(東アジア包括的経済連携)協定が技術協力や経済発展の重要な手段として高く評価して、中国とのバランスの上からも貿易協定への米国の参加を望んでいると指摘した。「インド太平洋経済枠組(IPEF)」がTPPに代わるものと見られることはないと見通した上で、地域のTPPへの高い評価と中国の加盟申請の動きもにらんで再考を促している。日本はバイデン政権にTPP復帰を繰り返し説得する必要がある。それが米国そして日本の対中戦略にとって極めて重要だからだ。日米の「経済版2+2」とIPEFとの関係はなお不透明だ。岸田首相は首脳会談で「IPEFを含む米国の地域へのコミットメントを歓迎した」(外務省発表)が、年内の新らたな国家安全保障戦略の策定のために軍事だけでなく国際経済政策を含め地球規模の視野に立つダイナミックな戦略構想を練る必要に迫られている。
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