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2021-12-13 07:20

「洞ヶ峠」でリーダーシップは発揮できない

鍋嶋 敬三 評論家
 バイデン米政権が12月6日、2022年2月の北京冬季五輪に政府高官や外交使節を送らない「外交ボイコット」を発表、続いて開いた「民主主義サミット」と相まって米中対立が一層深まった。英国、豪州、カナダが賛同しニュージーランドは「新型コロナ」を理由に閣僚派遣をしない。米国と共に5ヶ国は最高機密情報を共有する「ファイブアイズ」である。欧州の動向が注目されている。台湾の事実上の代表部を置き緊密化を進めるリトアニアが支持、チェコも上院が決議で応えた。しかし欧州連合(EU)は一枚板ではない。2026年に冬季五輪を開催するイタリアは不参加、2024年パリ五輪を開くフランスのマクロン大統領は9日「政治問題化すべきでない」と語り、バイデン政権と距離を置いた。EU 加盟国の対中関係は濃淡がある。対中経済関係が強いドイツのような国もあれば、ロシアに接近し人権問題で唯一「民主主義サミット」に招待されなかったハンガリーもある。

 中国外務省の報道官は「スポーツの政治問題化を止めよ」と強く反発し、「代償を払うことになる」と「報復措置」の可能性も示唆して賛同国が増えないようけん制した。最高指導者の習近平共産党総書記(国家主席)にとって、北京五輪の開催は政治的に極めて重要な行事である。10月9日の辛亥革命110周年記念大会で演説した習氏は台湾統一という「歴史的任務を必ず実現する」と宣言した。11月11日の党19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)では第3の「歴史決議」を採択。この中で習氏は「党中央と全党の核心」として「指導的地位を確立」(6中全会コミュニケ)し、2022年秋の党大会で異例の党総書記3期就任への道を開いた。その習主席にとっては北京五輪の開催成功は、自身の指導権確立を内外に誇示する絶対の条件である。それだけに「外交ボイコット」に対する反発は強烈なものがあるはずだ。

 米中オンライン首脳会談(11月15日)は台湾問題と共に中国の人権侵害について真っ向対立、習氏は「人権問題での内政干渉に反対する」と断固として譲らなかった。それを受けた米国による「外交ボイコット」と「民主主義サミット」である。世界が民主主義陣営と権威主義体制に二分され相克が深まる。米国の同盟国で、世界の民主主義陣営の有力国でもある日本の動向が注目されている。しかし、岸田文雄内閣はホワイトハウス発表以来12日までに、正式な態度を示していない。岸田首相は12月6日、国会の所信表明演説で「国際的な人権問題への対処を含め、しっかりと取り組む覚悟です」と述べた。9日には衆院本会議で「適切な時期に諸般の事情を総合的に勘案し国益に照らして自ら判断したい」と答弁した。しかし、どう「しっかり」対処するのか不明であり、政策決定の原則論を述べているが、具体的な方向性が全く見えない発言に終始している。

 要するに、英国でのG7外相会議(12月11ー12日)など世界の民主主義主要国の動向を見て中国の反応も探りながら、バイデン大統領の立場を損なわず、最大の貿易相手国である中国の強い反発も招かないよう、できる限り抵抗の少ないやり方をしようということであろう。人権問題で中国に直接的な意思表示をするような外交的アプローチを避け、各国の動静を見極めてから決めようとする姿勢が丸見えである。「様子見」は日本外交の「得意芸」かも知れないが、それが指導者の発言につながるとすれば情けない。日本は民主主義陣営の責任ある大国として人権侵害に立ち向かう気概を自らの行動で示すべきではないか。勝負の形勢を見回して態度を決める「洞ヶ峠」では国際秩序が動揺する転換期の世界でリーダーシップを発揮することはできないのだ。
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