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2021-12-10 21:44

北方領土から真珠湾攻撃へ

松井 啓 初代駐カザフスタン大使
 80年前の1941年12月北方領土(択捉島)から出撃した日本の艦隊の航空部隊は米国ハワイの真珠湾を攻撃し日米の開戦となった。ソ連は1941年に締結された中ソ中立条約を破り1945年8月9日に対日戦争を開始し、日本が8月15日にポツダム宣言を受諾して降伏した後も千島列島侵攻を進め9月5日までに北方領土をすべて占領した。国後海峡(国後島と北の択捉島の間)は日本海からオホーツク海に抜ける戦略的に重要な水路であり、ロシアはオホーツク海を太平洋と画する自国の内海とみなし、北極海航路も視野に入れた千島列島周辺地域を軍事的要衝の一つとして軍事インフラの整備を進めている。5年前には択捉島と国後島に地対艦ミサイルシステムを配備し、この地域の軍事力強化の姿勢を鮮明にし、また、本年12月2日にロシア国防省は松輪(マトゥア)島(千島列島中間にあり旧日本軍の飛行場や港湾があった面積52㎢程度の小島)に新型の地対空ミサイルシステム「バスチオン」(飛行距離500㎞)を配備したと発表し、ここに年間を通じて活動できる海軍施設も設置し、周辺海域を常時監視することとしている。本年10月及び11月には中ロの軍艦及び軍機が共同で相次いで日本周辺の海域や空域を巡回したことは、「自由で開かれたインド太平洋」を主張する日米両国に対する中ロの牽制とみることができよう。
 他方、プーチン大統領はソ連崩壊を20世紀最大の悲劇であるとして、失地回復を目指しウクライナのクリミヤ半島を手中に収め、さらにウクライナ東部の2州の併合を目指して米国との軋轢を高めているが、自己への支持率低下を食い止めるためにも後には引けない状況である。アラスカを米国に売却したことを除けば、領土拡張へのロシアのあくなき食欲は北極圏にまで及んでいる(近年ではデンマークにグリーンランドの買取りを提案)。ロシア人の国民性からみて、戦争の結果手中にした北方領土を日本に譲り渡すことは、国際的政治経済情勢の変化によりロシアの国益にかなうとみなさない限り困難であろう。安倍首相はプーチン大統領と27回にも及ぶ首脳会談を重ねたが、結局は1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結に努力することに回帰してしまった。
 両国間には領土問題解決に向けて経済共同活動を進めるとの合意があり、数回に及ぶ会合が繰り返されてきているが、北方領土で「双方の法的立場を損なわない特別な枠組み」を大前提としているので、日本はそもそも実現不可能な絵に描いた餅に振り回され、ロシアの手玉に取られて無駄な努力を続けてきているのではないだろうか。
 さわさりながら、天変地異でもない限り4島は存在し続ける。ロシア国民は息が長く大国意識が強くナショナリズムが高い。我々はこの未解決の問題を風化させることなく、特に若い世代への啓発を強化し、国民の理解を得て、解決のための合意形成に努めていかなければならない。日本の首脳は個人的思い入れや幻想にとらわれることなく、国際的視野から日本の長期的国益を踏まえて「焦らず、慌てず、諦めず」、地道に解決の時機を探っていくことが肝要である。
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