国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-10-06 23:57

(連載1)カーボンニュートラルと原発問題―COP26を前にして

袴田 茂樹 日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
 近年、「カーボンニュートラル(脱炭素)」(再生可能エネルギー)はファッションあるいは流行語になった感がある。脱コロナでは、全世界が現実に切迫した状況に置かれているが、脱炭素は全世界で急激に流行った「新興宗教」と言っても良いのではないか。再生可能エネルギー・ブームもそれと結びついている。ただわが国では、再エネとか脱炭素という時、メディアの一般論調や世論、国民心理からみて、原子力発電はほぼ除かれるか特別に規制されているので、この点でフランス、ロシア、中国、インド、米国、その他の国とは決定的に異なった状況に置かれている。また、欧州と異なり電力やガスなどの国境を越えた輸送網が日本には存在しないので、脱炭素達成後に再エネで危機が生じると、国家全体の沈没となる。
 
 私がファッションとか宗教というのは、地球温暖化とCO2排出の関係とか生態系への影響について科学者の間でも必ずしも一致した見解が存在しないからだ。その関係を否定する専門家も少なくない。一例を挙げると、しばしば北極海の氷の溶解でシロクマが餌の捕獲ができなくなり、2100年までに絶滅するとして絶滅危惧種に指定され、痩せ細った白熊の映像がセンセーショナルにメディアで取り上げられる。しかしシロクマは近年相当増加しているとして英国のS・クロックフォード博士が具体的な資料を提示している。彼は捜査動物学で35年の経験を有する専門家で、シロクマの環境変化への優れた適応性も指摘し、世界の専門家たちはこのような研究結果に注目しているが、宗教が科学を無視するのは通例のことだ。
 
 現在の温室効果ガス削減目標制定の背景となるのは2015年のパリ協定であるが、国の指導者レベルでも企業人も、「地球温暖化が今日人類の直面している最も深刻な問題の一つであって、その原因はCO2 排出である」という考えが一般化している以上、簡単には反対できない。脱炭素に関して相当前向きの政策や対策を打ち出さないと、国際的にも国内的にも孤立するし、企業によっては存立さえ危ぶまれる事態になるからだ。
 
 国の指導者は2050年までに温室効果ガスを全体としてゼロにするとして、そのために2030年までに達成すべき目標を掲げる。つまり、現実から出発し、どれだけの努力をすれば何年先に何が可能かではなく、先ず2050年の高い目標が掲げられ、そこから逆算して、2030年の目標を決めているのだ。菅首相も、2030年の温室効果ガス削減(脱炭素)目標を、2013年比で26%と言っていたのを、今年4月に米国が主催した気候サミットで、いきなり46%に引き上げ、さらに50%に向けて挑戦を続ける決意を表明した。これらの目標数字を掲げるにあたって、首相が専門家や企業人としっかり検討したとは聞かない。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム