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2021-07-13 22:14

「台湾有事」、冷静な意見に耳を傾けよ

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 イギリスコーンウォールで開かれたG7首脳会合で菅首相は「自由で開かれたインド太平洋」なる「外交専門用語」を述べつづけたという。この語は、表向き安倍晋三前首相を提唱者として、太平洋と、なぜかインド洋とを結ぶ地域で、法の支配や市場経済を重視する国々が協力し合おうという構想で、一見すると平和な経済圏構想のように聞こえるのだが、その実、そこに書かれた紙面の裏側には、日本や米国、オーストラリア、インドを核として中国封じ込めを図るといういささか生臭い匂いが漂う。
 南シナ海の環礁などを埋め立てて軍事要塞を建設するという暴挙、東シナ海では日本がその領有を主張する尖閣諸島に対してそれに抗議する示威活動、加えて台湾へ向けた陰に陽に加える軍事的圧力、中国習政権が繰り出す強軍政策が周辺各国の神経を逆なでしている。中で最も喫緊の懸念が台湾への軍事侵攻「台湾有事」である。「6年以内に何らかの動きを始めるのではないか」という専門家筋のアジテーションも聞こえてくると、そう心穏やかに居る訳にはいかない。懐疑は猜疑を育て、猜疑は一触即発の事態を招く。何か冷静な判断は無いものか。そう思っているところへこんな外電が入ってきた。「米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は6月17日、米上院歳出委員会の公聴会に出席し、中国が台湾に対して軍事的圧力を強めている問題をめぐり、『中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない』と分析、『近い将来、起きる可能性は低い』とした。また、『中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い』とも述べた」(2021/06/19朝日新聞)
 ここに「長い道のり」が、この先どのように延びていくのかという問題こそが問題ではあるが、「自由で開かれたインド太平洋」をもって中国の広域経済圏構想「一帯一路」と覇を競うというのであれば、かつての北太平洋条約機構(NATO)対ワルシャワ条約機構(WPO)の対決という世界冷戦のアジア版に過ぎない。どうみても「地球儀を俯瞰して見る」と大言壮語をし続けた安倍前首相と比較して外交手腕があるとも思えない菅氏は、咀嚼しきれていないキャッチコピー「自由で開かれたインド太平洋」を大声で叫ぶのでなく、上記米軍トップの冷静沈着な見解にも耳を傾けてもらいたい。
 なにより肝心なことは、日中二国間の歴史に照らして、日本が中国と「台湾有事」で衝突しければならない必然性は何も無い。台湾問題は日本人にとって「祈る」べき中国人同士の問題であって、「関与すべき」外交問題では断じてない。さらに、尖閣の帰属は将来の知恵ある者たちにあずける問題(鄧小平)であって、現今の日中両指導者には荷が重すぎると見なければなるまい。
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