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2021-05-31 14:46

(連載1)「五輪集団観戦」に潜む構造的な教育問題

葛飾 西山 元教員・フリーライター
 5月22日付のWEBニュース「AERAdot.」において、「東京五輪児童・生徒81万人観戦計画に変更ナシ~『誰が責任をとるのか』保護者や教員の不安」という記事がアップされてほぼ1週間が経った。東京オリンピック(以下「東京五輪」または「五輪」)の開催・中止の是非については多くのコメントが上がっているが、この問題については今一つ重要な問題として扱われていない感があるので、ここに改めて提起するものである。
 
 記事では東京五輪に関連する学校行事として、都内の公立小学校・中学校・高等学校の集団観戦が予定されており、そのための事前の教員による集団下見が実施され、現段階では撤回の予定はなく、実施予定の学校行事として準備が進められていること、これに対して保護者からの「理解できない」という反応と、現場教員の戸惑いが記されていた。集団下見は「感染対策」をしていれば問題なかったようで、40人単位の「少人数」に分けて実施されたということである。児童・生徒の集団下見は筆者も多少の違和感を覚えながらもその計画自体は知っていた。コロナウイルス禍以前の2018年に策定された計画であるが、これに41億円の予算がついていたことまでは寡聞にして知らなかった。驚いたのはこの計画がそのまま粛々と実施に向けて動いているという事実である。国連のアントニオ=グテーレス事務総長は5月24日に「我々はウイルスと戦争をしている」と述べた。目に見えない敵に対して戦時下の緊張感で向き合わなければならない状況下で、変更指示が下りてこないからということで、平時に策定された計画を、戦時においても粛々と進める行政の在り方を、合理的にどのように理解してよいのかは、愚鈍な私には考えが及ばない。
 
 百歩譲って、児童・生徒全員にワクチンを優先的に接種してから、というのであれば分からなくもないが、16歳以上の高校生が接種を受けられるのはこれから見通しをつける段階で、ましてや16歳未満の接種は予定されていない。行き返りの途上の安全対策は学校任せである。そんなことはお構いなしに、決定事項として児童・生徒の集団観戦は実施に向けて粛々と準備が進められている。現在、学校現場では体育祭、遠足、校外学習は延期や中止になったり、部活動も活動そのものが大幅に制限されている。東京都内の新規感染者数は500人前後で推移しているが、ひと頃より減少傾向にあるとはいえ、決して少ない数ではない。ましてこれからインド変異株の市中感染の増加やベトナムで発見された変異株の新たな流入が懸念されている。年齢に関係なくウイルスに感染することも指摘されている。そのような、いつ、誰が、どこで感染してもおかしくない状況の中で、五輪観戦は「安心安全の感染対策が行われているから」として特別扱いで実施するというは、一貫性がないどころか、支離滅裂の感を禁じ得ないのは私だけであろうか。
 
 ここで、児童・生徒の五輪集団観戦は、実は教育の構造的な問題を内包していることを指摘しておきたい。それはこの集団観戦が「学校―生徒・保護者」という抗えない上下の関係性の元で実施されるという点である。学校現場では東京五輪が決まってからすぐに、「五輪にどのように貢献するか」という視点からの教育が行われてきた。当然これは教育委員会からの通達に基づくものである。都立高校の推薦入試でも「自分なりに五輪にどのように貢献するか」を作文試験のテーマに据えたケースをいくつか見た。そもそも五輪で求められたのは「ボランティア」であった。ボランティア精神は趣旨に賛同する人の自発的意思に基づくものであり、決して全員一丸で「奉仕」「貢献」することと同義ではないはずである。(つづく)
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