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2007-09-05 11:37

ASEANが「真の友人」になるのはいつか

鍋嶋敬三  評論家
 安倍晋三首相が8月20日、インドネシアのジャカルタで対ASEAN外交の基本方針について「思いやり、分かち合う未来を共に」と題する政策演説をした。設立40周年を迎えたASEANが「東アジア協力のハブ(中心)」であり、その推進力として重要な役割を果たすととらえ、ASEANの発展が「アジア、日本の利益」になるとして、日・ASEANの相互補完関係を強調した。東南アジアについては、派閥の源流である福田赳夫、祖父の岸信介の両元首相とも、浅からぬ因縁がある。

 日本の対ASEAN外交は30年前、福田赳夫首相がマニラで発表した東南アジア外交3原則(福田ドクトリン)がスタート台だ。内容は(1)日本は平和に徹し、軍事大国にならない、(2)東南アジアとの間で真の友人として、心と心で触れ合う相互信頼関係を築く、(3)「対等な協力者」の立場に立って平和と繁栄の構築に寄与するーーというものである。福田氏は日本とASEAN(当時5カ国)の首脳会議で、5年間に政府開発援助倍増を打ち出して関係強化に乗り出した。その3年前、田中角栄首相が東南アジア歴訪中、タイとインドネシアで激しい反日デモや暴動に見舞われた。日本の急速な経済進出への反発があったとされ、福田ドクトリンは日本外交の失地回復の意味があった。

 日本の首脳による東南アジア歴訪は50年前の1957年5月、安倍首相の祖父である岸信介首相に始まる。岸氏は回顧録の中で「アジアの中心は日本であることを浮き彫りにさせ」「アイク(アイゼンハワー米大統領)と会って日米関係を対等なものに改めようと交渉する私の立場を強化する」との判断に基づいたものだったと記している。旧日米安全保障条約の改定をにらんだ極めて政治的意図の強いアジア歴訪だった。安倍演説の5日後、日本とASEANはマニラでの経済閣僚会議で経済連携協定(EPA)の締結で合意した。日本にとって初の多国間協定で11月の日本・ASEAN首脳会議で正式合意の運びになる。ASEANとの自由貿易協定(FTA)では中国、韓国が先行した。EPA締結は東アジア共同体構想をめぐる中国や米国の思惑を見据えつつ経済、政治・安全保障の両面から日本としての足場を固める狙いがある。

 2005年、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指した日本の決議案にASEAN10カ国から共同提案国になった国は一つもなかった。中国の執拗(しつよう)な反対工作があったとはいえ、頼みとする足元のASEANからも孤立したことがはっきりした。当時の町村信孝外相はアフリカ諸国への支持工作のため欧米を飛び回り、ASEANとの外相会議を欠席してアジア票を逃したと批判された。ASEANが福田ドクトリンのいう「真の友人」になるのはいつか。日本は30年前の課題をいまも背負っているのである。
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