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2020-09-20 20:17

安倍政権の北方領土・憲法問題を総括する

角田 英明 鐘紡株式会社元社員、日本国際政治学会会員
 何故、安倍晋三前首相はあれほど執着した北方領土問題と憲法改正に未達どころか糸口も確保できなかったのか端的に言及するならば、その答えはいずれも本質の見誤りとそれに伴う施策の不適切と不作為にあると言えるのではないか。
 
 イデオロギーに現在奉じている、或いは過去に奉じた国家は、マルクス・レーニン主義に基づく自らの理想、崇高な目的の実現の為には暴力行為を含めあらゆる不法行為や背信行為を是認する経験をしている。それ故に、このような過去を経た国家のリーダーの認識や見解は極めてリアリステック且つ情動を廃した冷酷な判断を平然とする傾向がある。昨今の中国への米国の関与政策の失敗、中国の力を背景にした領土・権益の拡大志向、かつてソ連時代に自国の勢力下であったロシアの旧領土(明確なる他国の領土)の強奪、そして反対勢力のリーダーやマスコミの批判分子等の留めなき暗殺、等々はこの実態を表している。要するに、こうしたイデオロギー国家の本質は、弱き者、或いは軟弱に対応する者に対しては、どこまでも己の利益を追求し、己の利益に反するものには一切の融和乃至温情思考を冷酷に排除するものであると言える。

 従って、周知のプーチンとの27回にも及ぶ面談、ロシアに経済的利益のある施策の打ち出し、さらにはあろうことか実質的に2島返還で良しとするかのような大幅譲歩にもプーチンは応じなかった。挙げ句の果ては意味のないような隣国への言及で留保をつけてはいるものの憲法改正によって領土の割譲禁止条項を条文化するという、我が国(安倍首相)への頬への平手打ちのような行為を平然とするのも、上述を踏まえれば当然の帰結であると言える。思うに、北方領土問題はその経緯から、それ自体を単一問題とせず、原点(ヤルタ秘密協定)において責任のある米国を含めたグローバルな中長期的国際政治経済の駆け引きの中に落とし込み、ロシアの利益をその中に見いださせるしたたかな戦略の中に解決を見いだす手法を認識する必要がある(領土問題は単一思考では解決できない、この手法は最終的には往々にして戦争のみ)。この点、安倍政権は、長期政権であったが故になんらかの一手を打ち出せる可能性があったにも拘わらず、しかし実際には、その端緒も見られなかったことは残念と言わざるを得ない。
 
 そもそも、北方領土問題に関連して、何故、国家として憲法改正が必要なのか。それは、現行憲法への憲法全面改正が、敗戦直後から始まった連合国軍による占領期にあって、日本が二度と米国に立ち向かうことのないようにするための日本の国家的弱体化政策に起因するものであり、且つ残念ながら現実の世界は現行憲法が期待する理想から如何にも遠い状況にあるからである。であれば、歴史に見る通り人間とはそうした存在である、という現実を直視させる国民教育をすることが憲法改正の王道といえる。それにもかかわらず、これが着実に国民理解を得られる確かな手法であるという認識を持ち、そうした施策を具体的にとらなかったことは大きな誤りであると言えるのではないか。このことは最も肝要である近現代史が本年(令和2年)に至って、遅まきながら漸くにして高校の歴史必須科目となったことが、その認識の欠落をよく表しているといえる。
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