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2020-08-24 19:54

(連載1)ベラルーシ情勢から比エドゥサ革命を想起する

葛飾 西山 元教員・フリーライター
 いま、旧ソ連のベラルーシで「ヨーロッパ最後の独裁者」と目されるルカシェンコ大統領の当選・就任の正当性を巡り、民衆のデモが高まりつつある。治安当局は帯銃での警備に乗り出し、さらに軍の出動の可能性も取りざたされる状況である。筆者はアジア史を専門としており、東欧情勢には疎いため、この問題に立ち入って議論する資格はもとより持たない。ただ大統領選挙結果をめぐって民衆が「不正選挙」と批判して大衆行動を起こした光景については、かつての1986年のフィリピン民主化革命(エドゥサ革命)がオーバーラップしてしまう。ここでかつての状況を振り返りながらベラルーシの行く末を見通してみたい。
 
 1986年2月にフィリピンで大統領選挙が実施され、現職のマルコス大統領が「当選」ということで勝利宣言した。これに対し対立候補のコラソン・アキノ氏陣営が選挙の不正を訴え、こちらも民衆の怒りをバックに勝利宣言をした。コラソン・アキノ氏は特に政治活動の実績はなかったが、かつて民主化運動の闘士でマルコス大統領からの警告を無視して米国から帰国したところをマニラ空港で射殺されたベニグノ・アキノ氏の妻として、民主化運動の象徴的存在になっていた。両者が勝利宣言をしたことで事態は風雲急を告げた。当初、マルコス大統領は軍を出動させ、テレビでも「反乱勢力」の鎮圧を指示する威勢の良い姿が映し出されていた。それでも民衆デモの高まりは収まらず、軍と民衆デモが対峙することとなり、その中でエンリレ国防相とラモス参謀長が反旗を翻して民衆側に就いたことで事態は一変した。マルコス大統領が一気に劣勢となり、マラカニアン宮殿をヘリコプターで脱出することとなった。
 
 フィリピンとベラルーシには何の連関性もないが、事態の展開は極めて酷似しつつある。ベラルーシの対立候補のスベトラーナ・チハノフスカヤ氏も政治経験はなく、反体制派のセルゲイ・チハノフスキー氏の妻として民主化運動の象徴となっている。違いがあるとすればチハノフスカヤ氏がすでにリトアニアに出国して徹底抗戦の姿勢を見せていることであろうか。
 
 かつてのフィリピンもアジアにおける反共産主義の砦として米国が独裁政権の状態には目をつぶりながらマルコス政権を支えてきた経緯はあったが、さすがに米国から引導を渡され、ハワイへの亡命となった。ルカシェンコ大統領の場合、特にロシア派、EU派なというわけではない。しかし事態の展開次第では国民世論が一気に反ロシアにならないとも限らないため、ロシアも隣国の情勢の展開を見極めているようだ。(つづく)
 
 
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