国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2020-08-04 19:33

拉致被害者が北朝鮮の混乱した社会で生きているということ

荒木 和博 特定失踪者問題調査会代表
 7日29日付の産経新聞1面に掲載された「『北で日本人7人と接触』解放の米博士 拉致示唆の女性も」という記事をご覧になられた方もいるでしょう。ソウル支局の桜井紀雄特派員のこのスクープは産経新聞の独自調査によるもので極めて重要な意味を持つものです。証言をしたのは一昨年5月、北朝鮮から解放された韓国系米国人のドンチョル・キム博士です。飛行機から降りてくるのをトランプ大統領が迎えた姿は覚えている方もおられると思います。北朝鮮で事業を行い、東北端の経済特区羅先市の要職にもあったキム氏に接触してきた日本人についての証言です。キム氏には桜井紀雄ソウル特派員が時間を掛けて接触を続け、インタビューを行ってきました。私もご本人と電話でのお話しやメールでのやりとりをしています。本当は4月にも米国に行ってお会いするつもりだったのですが、コロナのおかげでまだ果たせずにいます。
 
 特に重要な点は、日本人拉致被害者が監視つきながら北朝鮮の一般社会に参加していたという話です。これは私自身たびたびその可能性を指摘しておりましたが、それが証言によって裏付けされた形です。たとえば、園田敏子さんは北朝鮮の国境近くで生活していたとの目撃証言や写真が出てきていましたが、同様に平場で北朝鮮の人々と暮らしている多数の拉致被害者がいたという証言はドンチョル・キム博士が初めてです。実際には、平場で北朝鮮の人々に紛れて暮らしながら自分が拉致された人間であるということは公にできずに生きている人が多くいることでしょう。
 
 また、騙されて北朝鮮にやってきたというのも、有本恵子さんらのヨーロッパでの拉致のケース以外では初めての証言だと思います。これまで拉致というと海岸でいきなり工作員に袋詰めにされ、隔離された招待所で暮らすというイメージだったと思いますが、実際は異なるケースが多数あるということです。このような強引な手法での拉致は少数で、実際には日本に住む北朝鮮工作員の協力者がターゲットを調べ上げて、詐欺師よろしく言葉巧みに誘い出し、連れて行ったきり帰さないという手法が多く採られたということが明らかになったという点で重要な意味を持つものと思われます。ただ、騙されて連れて行かれたから拉致ではないなんていう解釈は間違いです。騙して連れて行くのも含めて「拉致」ですので強調しておきます。
 
 さらに拉致被害者が一般社会に出ているということは、監視はあるにしても一般の北朝鮮の人々と同様の処遇ということです。そうなると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19))の北朝鮮への拡大(北朝鮮当局は開城工業地区の韓国人を経由して北朝鮮に感染が広がったと主張して最近同地を封鎖したとのことですが、実際にはもっと前から北朝鮮国内で感染を広げていたと思われます)による健康リスクも北朝鮮人民と同様に受けているということです。また、経済制裁によって北朝鮮は極端に経済状況が悪化し、平壌市民の配給も滞るなど1990年代の「苦難の行軍」に匹敵する打撃を受けているというのですから現地で生き抜く拉致被害者のことが心配でなりません。北朝鮮が混乱している今、予備役ブルーリボンの会のパンフレットにある「救いますか、それとも見捨てますか」という言葉が差し迫ったリアルであるということを一人でも多くの方にご理解いただき、北朝鮮問題に関心を寄せていただきたいと思います。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム