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2020-06-13 16:13

(連載1)米国の持つ二面性の発露としての黒人暴動問題

大矢 実 日本国際フォーラム研究員

 現在、米国各地で黒人による苛烈な暴動が連鎖的に発生している。こうした動きについて、日本では批判的な論調が主流のようだ。たしかに、無秩序な暴動は、抗議運動とは明確に区別されるべきであるし、違法な破壊や略奪は許されるべきではないだろう。また、コロナ禍の影響で失業率が激増し社会的な不満が鬱屈していたこと上に、今年が米国大統領選の年であることもあってジョージ・フロイド氏殺害事件が現政権批判の材料として政治利用されている面も否定できない。一部では極左集団の暗躍も指摘されている。

 だが、いうまでもなく、人種差別を端緒とした暴動は今回が初めてではなく、米国で繰り返し発生していることは事実であり、その背景に、米国社会の宿痾といえる人種差別問題が構造的に横たわっていることは間違いない。つまり、こうした「現象としての暴動や略奪」について、型どおりの批判を繰り返しているだけでは、状況の改善は見込めないということである。構造的問題については構造的な理解と対応がなにより重要といえる。

 今回の暴動の発端となった、ミネアポリスでの警官によるジョージ・フロイド氏殺害事件が発生した5月25日と同日、エイミー・クーパーという白人女性が、ニューヨークの公園で、黒人男性を差別的発言で恫喝したという事件が発生した。この白人女性が犬をリードから外して遊ばせていたことについて、通りがかった黒人男性が公園の利用規則違反であると注意をしたところ、白人女性が激昂し「アフリカ系アメリカ人に脅迫されていると警察に通報するぞ」と脅し、黒人男性がなお屈しないことを受けて実際にそのように通報したというのが事件の流れである(この事件の一部始終は脅迫を受けた男性が録画しツイッターにあげているhttps://twitter.com/melodyMcooper/status/1264965252866641920?s=20)。フロイド氏殺害事件にかき消されたかたちとなったが、こちらの事件のほうが、米国における黒人差別の現状を構造的に理解するにはわかりやすい。

 ポイントは、エイミー・クーパー氏が、「白人女性である自分が、黒人男性に対して『黒人に脅迫されていると警察に通報するぞ』と伝えることが、相手に対する強力な抑止力として機能する」ことを理解しており、実際に行使した点にある。つまり当事者間のいざこざの事実関係よりは、「白人女性対黒人男性」という構図こそが、警察の対応を左右する決定的な要素であることをクーパー氏は理解し、「警察は黙っていても白人の味方をするのだから、勝てない争いをするな」と黒人男性を威圧したわけである。これは裏を返せば、警察が日常的にそうした人種差別的な対応をしていることが、米国社会でいわば市民的常識となっていることに他ならない。

 米国では、憲法や法律にて人種間の平等を保障する文言がいくら積み重なっていても、人種差別は日常生活において厳然と現象化している(これは黒人に限らず、フィリピン系、ヒスパニック系、ベトナム系、日系を始めとした様々なルーツを持つ米国人が体感していることである)。もちろん有色人種でもアメリカで成功を収める人は数多くいるが、白人に比べて人生の折々において大きな困難にぶつかるし、成功した後も常に米国社会から迫りくる有形無形の圧力にうまくヘッジしながら生きていかなければならないと感じていることはマルコムXやキング牧師といった社会運動家からマイケル・ジョーダンやバーニー・ウィリアムズのような政治とは無関係の世界で活躍した人物までが漏れなく主張する現実だ。(つづく)

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