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2007-08-23 18:24

日本と米国に訪れた国運の変化

奈須田敬  並木書房取締役会長・月刊「ざっくばらん」編集長
 よく言われることだが、個人の人生にも運命、宿命というものがつきまとうように、国家、民族にも、それに似たものがある。学問的に一口でいえば、それは「地政学」のジャンルであろうが、ヨーロッパや中東のような広大な大陸においては、諸民種・民族が複雑怪奇的に住み、それぞれが国として国益を主張しながら共存、もしくは紛争・戦争をくりかえしている現状を、我々日本人は、いやというほど日常的に見せつけられている。

 幸い、わが国は海洋国、島国として「ヨーロッパの英国」と対比されつつ、「名誉ある孤立」を保持して来た。概略的にいえば、「明治維新、開国」の国是・国策が決定されて、それまでの「鎖国」政策をかなぐり捨てて以来、日本国(民)の地政学は運命的・宿命的な変化の中に身をおかざるをえなくなった。それを「国運の変化」といっておきたい。日本の国運の変化は次の5つにしぼられようか。1.欧米文明(文化)の受容、2.大陸への進出、3.日英同盟の締結、4.日露戦争以後の日米関係の変化、5.清朝(中国)の内乱。我田引水的に、もう1つ追加しておきたい。4と5の間に、「日英同盟の廃棄」を挿入したいと思う。

 日本に国運の変化があれば、米国にそれがあっても不思議でない。ヨーロッパの新興国ともいわれる米国の国運の変化は、米国の史家によれば、「西部開拓」のロマンをおおむね達成した19世紀の後期だという。もっとはっきりいえば、1898年の米西戦争である。《もし米西戦争が、キューバを開放する十字軍たるに止まっていたならば、米国外交の変化はそれほど重要でなかったであろう。しかし、米西戦争は更に深入りした。大統領ワシントンの告別演説に表示されている米大陸の国境を超え、有名なモンロー主義やデスティニイ宣言を超え、また、表面上避くべからざるものとされていた米国のカリビア海制覇を超え、更に、懸案であったハワイ併合をさえ超えたのである。すなわち、武力によってフィリピン群島を撃破し、米国の植民地と化したのである。》(『米極東政策史』(A・W・グリスウォルド著/柴田賢一訳、ダイヤモンド社、昭和16年5月刊)

 1890年、米国海軍大佐マハンが「歴史における海上権力(『シーパワー』)の影響」を世に問い、政治家、識者に多大な影響を与えた。とくに、のちに日英同盟廃棄政策の推進力となったロッジ上院議員は、同志のセオドール・ルーズベルト海軍次官と共に熱烈なマハン信奉者であった。

 前回ではグルー駐日米大使と共に日米交渉(首脳会議)に政治的生命を懸けて失敗、下野した近衛文麿とグルーの信頼感溢れる私信を、グルーの日記(『滞日十年』毎日新聞社、昭和23年)より抜粋したが、前記、国運の変化を巨視的に観察するならば、グルーと近衛の悲願は、結局は失墜に終わらざるをえない流れの中にあったと、同情を禁じえないが、同時に、二人の信頼感はけっして不発に終ったのではないことを、国運の変化はみごとに証明している。戦争最末期、国務次官グルー(1944~5年)の対日和平工作も去ることながら、戦後占領で日本の健全な復活と復興のため、前回末尾に触れた、「米対日協議会」(ACJ)を創設し、戦前からの各界の知日派、親日派を結集した。設立メンバーの何人かを下にのせておく。
・ジョセフ・W・バランタイン―国務長官特別補佐官
・ウィリアム・R・キャッスル―駐日大使(1930年)、国務次官(1931~33年)
・ジョン・カーチス―ナショナル・シティ・バンク副頭取(退職)
・ユージン・ドゥーマン―駐日米大使館参事官(1937~41年)
・トーマス・C・ハート海軍提督―アジア艦隊司令官(1939~42年)(退役)、(上院議員)
・ジェームス・リー・カウフマン―東京帝国大学教授(英米法、1913~19年)
・ハリー・F・カーン―『ニューズウィーク』外信部長
・コンプトン・パケンナム―『ニューズウィーク』東京支局長
・ウィリアム・V・ブラット提督―米海軍司令官(1930~33年)
(『軍隊なき占領』G・デイビス、J・ロバーツ著/森山尚美訳、新潮社、1996年刊)
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