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2007-08-21 10:27

連載投稿(2)ねじれ国会とテロ特措法――与野党は対話を尽くせ

角田勝彦  団体役員・元大使
 さて国民は、衆院と参院で多数派が異なる「ねじれ」が生まれてみて、国政が円滑に行われるだろうかとの不安を感じ始めている。8月初旬、時事通信社が行った世論調査では「望ましい政権の枠組み」として「自民、民主両党などの大連立」を挙げた人が27.5%でトップだったそうである。不満と不安を解消するのには、具体的政策の提示と実行しかない。大勝した民主党は、これまでの「選挙優先」の態勢から「国会での政策対決」へ切り替える方針をとり、政府与党と異なる民主党独自の考えを盛り込んだ法案を次々に参院に提出して通過させ、安倍内閣に突きつける作戦をとる由である。秋の臨時国会は、08年度予算編成の真っ最中だから、予算にくさびを打ち込む法案を集中的に提出し、来年の通常国会での予算案否決につなげ、衆院解散・総選挙に追い込む布石とする由である。例えば約1兆円の予算措置が必要な農家への戸別所得補償に関し、どんな法案が出されるだろうか。

 実は、当面の政策課題は、内政面より外交面にある。具体的には11月1日に期限が来る「テロ特措法」の取り扱いである。国民の関心事が圧倒的に年金などの身近な問題にあることが明らかになった参院選の結果、皮肉にも、それとは縁が遠いこの法律が、与野党対決の焦点として急浮上したのである。テロ特措法延長法案が衆院を通過しても、参院で野党が議決しない「引き延ばし戦術」をとったりして11月1日を過ぎると、この法律に基づき2001年12月より実施されている、海上自衛隊の、インド洋で対テロ活動を続ける米英仏などの艦船への給油・給水活動に、根拠法が無くなり、支障が生じるのである。米国は、活動続行を強く期待している。特措法延長に反対を表明する小沢代表に、8日、シーファー駐日米大使は直接説明したが、小沢代表は「日本の平和と安全に直接、関係のない地域での米国や他国部隊と共同作戦はできない」と協力を拒否した。シーファー大使は、のち「(自民党が延長に失敗した場合)日米同盟関係に否定的影響が出ることは間違いない」旨及び「小沢氏は事実誤認していると思う」旨述べた(8月14日付朝日)。

 国連中心主義を持論とする小沢代表は、従来もテロ特措法が対象とするアフガニスタンのテロ掃討作戦は「ブッシュ大統領が国際社会の同意を得ずに始めた米国の戦争」と位置付け、この特措法の延長に毎回反対してきた。この反対続行の陰に参院選大勝のあとこれからが勝負どきとして与党との対決色を強めんとする党利党略があるのは当然考えられるが、次期臨時国会にイラクへの航空自衛隊派遣を中止するイラク復興支援特別措置法廃止法案を再び提出することを検討する方針を表明していることもあり、かなり本気だろう。それに、最近の米国議会の例を見ても、本来「党派を超えた問題」として扱うべき外交にも政権交代を目指す党利党略がからまること(たとえばイラク撤兵論)や事実誤認に基づく決定(たとえば慰安婦下院決議)が行われることは珍しくなくなった。

 構造改革に関し、7日閣議に提出された2007年度の「経済財政白書」は、広がる所得格差を放置すれば全体の国民生活水準が低下すると警鐘を鳴らし、格差拡大を抑えるため税と社会保障を組み合わせた所得再分配の重要性を指摘し、低所得者層への支援も要請した。政府に厳しいこんな問題と違い、事実関係において、与党にかなり言い分があり、民主党内部にも延長に前向きな意見があるテロ特措法が与野党激突の試金石になるのは、新しい国会のあり方を模索する上で、そう悪くない。6月末の国会では与党の強行一辺倒の運営が目立った。8月8日の鍋嶋敬三氏の寄稿「テロ特措法、岐路に立つ民主党 」のご見解はあるが、小沢民主党が「反対」を続けることを、一方的に非難することもできない。

 なお「引き延ばし」による期限切れ戦術をとられると与党も対策に苦慮しようが、最後には知恵も出てこよう。とにかく賛否両論の交換と審議を尽くすことを第一にすべきである。与野党がねじれ国会でどうでるかが、将来の衆院選を前にもっとも注目すべきところである。(おわり)
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