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2020-04-18 22:16

パンデミック対策に不可欠な事前シミュレーション

古村 治彦 愛知大学国際問題研究所客員研究員
 「米政府は2019年1〜8月に、ある演習を実施した。『クリムゾン・コンテイジョン』というコードネームで呼ばれたこの演習は、中国で発生した新型呼吸器系ウイルスが航空機の乗客によって世界中に瞬時に拡散されるという、恐ろしいシナリオだった」(ニューズウィーク日本版2020年03月24日)。その結果は、国家レベルで対応がなければ1億1000万人が感染し、770万人が入院、58万6000人が死亡する、というものだった。トランプ大統領は、今回の新型コロナウイルスによる被害として、何も対応をしなければ220万人が死亡するという数字を挙げていた。昨年のアメリカ政府が行ったシミュレーションでも何も対応をしなければ58万という数字が出ており、対策を取れば10万から20万(その後6万人超とも発言)というトランプ大統領の示した数字は大雑把ではあるが、信憑性の高い数字ということになる。
 
 シミュレーションと言えば、戦争や軍隊に絡むものである。旧日本海軍で伝統として行われてきた「兵棋演習」もシミュレーションである。アメリカに駐在武官として赴任した秋山真之が日本海軍にもたらしたもので、英語ではWar Time Simulationという。ある会戦を想定し、あらゆる条件を決めて、戦闘を行ってみるというものだ。旧日本海軍の場合は、太平洋戦争では物量的に不利ということもあり、条件に手心を加えたり、改竄を加えたりして、無理やり勝利していた。ここからわかることは、シミュレーションは客観的に行わなければ、実態にそぐわないただの作り話になってしまうということだ。
 
 アメリカ政府は昨年、パンデミックが起きた際のシミュレーションを行った。これは現在の体制のどこに欠陥や不足があって、どのような結果になるか、最悪の結果を回避するためにはどのような準備が必要か、ということを客観的に明らかにすることを目的にしていた。上記の記事によれば今回の災禍の経過を予見する有意義な結果が得られたそうだが、今回の新型コロナウイルス感染拡大はその見つかった穴を塞ぐ前に発生してしまったようだ。アメリカ政府も日本政府と同様に対応が後手に回ってしまったようであるが、得意の物量作戦で何とか挽回しようとしている。トランプ大統領は今年の大統領選挙で再選を目指しているが、対応を間違えば落選の憂き目にあうことになる。今のところ、大統領の支持率は潮目を変えるほどには落ちてはいない。しかし、支持率が上がっている訳でもない。
 
 日本でも震災や水災といった自然災害のシミュレーションが行われていることはマスメディアでもよく取り上げられている。恐らく大規模疾病に関してもシミュレーションは行われていただろう。日本政府はそこで何が足りないか、どこに穴があるかを把握していたはずだ。もし、そのようなことがなされていないとするならば、国家経営上の危機だ。もしそうなら、是非、日本政府もシミュレーションを実施して、危機的状況に対する備えに役立てるべきだ。
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