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2020-04-02 16:13

(連載1)新型コロナウイルスをめぐる国際世論は生産的であれ

武田 悠基 日本国際フォーラム研究員
 新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に猛威をふるっている。伝染病の世界的流行は、グローバル化社会につきもののリスクとはいえ、今回のCOVID-19の流行ほど、短期間に広範囲に拡大し、各地に多大な社会的影響を与えた例は少ないのではないか。国によってはすでに不要不急の外出は禁止されており、また国外からの帰国者には2週間程度の「自己隔離」が義務づけられるようになった。
 
 さらに、いくつかの国では政府高官や王族などにまで感染が及んでいる。つい1、2か月前には想像だにしなかったような社会的変化が、世界各地で生じている。今後、事態が長期化すれば、人々の日常生活や仕事のあり方そのものにも不可逆的な変化がもたらされるであろう。こうした各国の状況や現地の人々の受け止め方は、SNSなどを通じて、瞬時に世界中で共有されているわけだが、これもまた情報技術のグローバル化のなせるわざといえる。
 
 それにしても、またたくまに地球規模でのパンデミックと化した今回の感染症に対して、各国政府はそれぞれ異なる対策を講じ、また、国別の感染者数や患者の回復率には大きな違いが生じていることは確かである。たとえば、欧米諸国は国境管理の厳格化、都市封鎖、自宅検疫などを断行しているにもかかわらず感染者や死亡者が激増しているのに対し、日本では、出入国制限をあくまで段階的に強化し、外出やイベントなどは「自粛の要請」を行うに留まるなど、さほど強硬な策は取られていないなか、今のところ感染者の爆発的増加は見られていない。こうした違いはどこからくるのだろうか。このような国別事情の国際比較は、今次ウイルス対策を強化するためにも重要な作業であるが、事態は現在進行形で推移しているわけであり、安直な推測や断定は差し控えたほうがいいだろう。
 
とりわけ避けるべきは、疑似・比較文化論とでもいうべき議論である。例えば、「衛生観念には文化的な違いがあるなか、日本人は清潔好きだから大規模感染を免れることができた」といった見解は、国内でしばしば耳にするが、そうした「文化的説明」は、いっときの自己満足にはなりえても、さほど生産的な議論にはつながらない。日本とて、いつなんどきオーバーシュート(感染爆発)に見舞われるかわからないのだ。現在、各国で感染者数は着実に増え続けており、しかも感染経路の特定が容易ではないという状態の対処に忙殺されている。各国の対応の違いが、それぞれ国情に即した最適策であるという「前向きな違い」となるよう国際的な協力を進めるほうが正道であろう。安易な自国文化優位論は、今回の感染拡大が始まった当初、欧米や東南アジアで、東アジア系人種に対する差別的言動が発生したことと、意識として同じ穴のむじなといえる。(つづく)
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