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2020-03-23 05:18

(連載1)アメリカ大統領選挙と中東問題

河村 洋 外交評論家
 アメリカ国内でのシェール・オイルおよびガスの急激な生産増大によって、アメリカの孤立主義と中東への非関与が加速することに懸念の声が高まっている。歴史が語ることは、エネルギーの自給ができたからといって孤立主義に走ることは愚である。第二次世界大戦でアメリカが連合国側に参戦する直前には鉱工業の生産力は圧倒的で、世界の60%もの石油を生産していた。当時の彼らは国際政治における熾烈な力のやり取りを軽視していた。アメリカ国民はパール・ハーバー攻撃によって、やっと認識を改めた。アメリカが中東から完全に手を引いたところで、敵対的な体制をもつ諸国やテロリスト達の考え方は変わらない。

 これらの勢力は、若者達に対して彼らのイスラム同胞の苦境がアメリカ、イギリス、シオニストの「枢軸」によるものだという憎しみを抱くように教育している。このように偏向したものの見方は数世代にわたって受け継がれている。この地域から手を引いてしまえば、第二、第三のパール・ハーバーあるいは9・11同時多発テロを誘発しかねない。大統領選挙運動の最中に、外交問題評議会は各候補者に外交政策に関する調査アンケートを送った。12件の質問の内で4件は中東問題で、イランとの核合意、アフガニスタンからの撤退、サウジアラビアによるカショギ氏殺害、イスラエルとパレスチナの和平交渉が挙げられた。

 有権者は中東での長い戦争に厭戦気分を抱いているかも知れないが、外交政策の専門家から見れば当地域は依然として戦略的に重要なのである。中東が何世紀にもわたって文明と大国間の競合の十字路であったことを忘れてはならない。4つの質問の内で最も緊急性があるのはアフガニスタンである。去る2月末にドナルド・トランプ大統領はタリバンと和平の合意に至り、彼の地から軍を撤退させると表明した。何とトランプ氏が選挙公約を馬鹿正直に遵守したために、この度は「メイク・タリバン・グレート・アゲイン」となってしまったのである。

 アメリカは14ヶ月以内に軍を撤退させて力の真空を生じさせるばかりか、タリバンのテロリストを釈放してしまう。究極的には、それでは彼らが再び勢いを増しかねない。さらにトランプ氏はイラクとシリアから性急に軍を撤退させるといった、バラク・オバマ前大統領の中東政策での過ちを繰り返しているばかりか、アフガニスタンではビル・クリントン元大統領の過ちを繰り返している。1997年にクリントン政権はタリバンの支配地での石油パイプライン建設計画の見返りにテロ支援の停止を期待したが、その合意で9・11事件は防げなかった。(つづく)
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