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2020-02-21 18:44

英国にみる「国家」のあり方、「国家連合」のあり方

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 イギリスのEU離脱で、EUは何を失敗したのであろうか。基本的にEUは、「各国家が主権を持ちながら、各国家の政治と経済を統合する」というかなり難しいミッションを持った組織だ。国家というものが「人間の集合体」であり、なおかつ構成する個々もしくは総体としての人間がもともと文化も歴史も価値観も持つ存在である以上、安定的な民主主義国家のもとでは国民が政治・経済活動をする中で時間を掛けながら均質的になる傾向を持つ。ゆえに、各国が主権を持ちながら政治と経済を統合し、且つそれぞれ異なる文化や歴史、価値観を持つ各国の国民性を保つということは、本質的に難しい試みだ。単純に、加盟国の文化や民族、宗教を完全に政治・経済から分離するということは、共産主義の「史的唯物論」を共産主義ではないのに行うということとも言い換えられる。現在のEUは、1990年代以降共産主義を標榜した国々が、人権を知った多くの民衆によって崩壊したのと同じような流れの中にあるのではないか。
 
 このEUという連合体、本来は国家連合のように各国が主権を持ちながら、その政治上における「許認可」「通貨」などのツールをすべて取り上げてしまっている。これで加盟国がうまくゆくはずがない。そのことに早めに気付き、かつ、ドイツやフランスに妨げられず国家の意志を通すことができる国、それがイギリスであった。そういう意味では、日本人のなかには「戦争をしない連合体の方が良い」というような感覚を持っている人がいるが、「連合体でも、協調的でいられない」場合を想定しないとただの理想主義だ。そういう具体例が今回のブレグジットといえるだろう。
 
 イギリスがこのままEUに残っていれば、イギリス王室は、フランスやドイツなどの共和制になってしまっていたに違いない。というのも、EUの「史的唯物論的な政治」がイギリスを覆えば、まさに「文化と歴史の象徴である王室を排除する」ということが長い目で見れば起きるだろうからだ。賛否両論のジョンソン首相も、イギリス王室とイギリスの文化を守ったと後世評価されるのではないか。
 
 では、今後イギリスはどうなるのか。経済の混乱がなくなれば、当然イギリスの方がうまくゆくと考える。図体が大きい方が改革などには弱いし時間がかかるのだ。EUは分裂や「搾取」ともいえる格差などといった構造的な問題を内部に抱えているが、その調整は、「革命」的なことでも起きなければ、なかなか進まない。加盟国の間で「ウイグルやチベットの自治区と漢民族の対立」の様な状況が起きないとも言えないのだ。そのままで大丈夫なのか。 一方、それに比べれば、イギリスは、ある程度の混乱の後に、持ち直すことが予想される。イギリスには、アフリカなどの旧植民地からの移民やEUで受け入れた難民など様々な人々がおり様々な問題も起きても、中長期的には文化や価値観を維持発展させながら「人間の集合体」としての主権国家を保ち続けていくだろう。それとの対比として、EU側がどうなっていくのかは見ていく必要があろう。もう一つは日本であろう。イギリスを見て、今後国家としての青写真をどう描くのか。EUを見て、アジアの地域統合をどう考えるのか。そのことをしっかりと見てゆかなければならない。
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