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2020-02-02 00:00

(連載1)インド太平洋戦略:日本はどこまで本気なのか

河村 洋 外交評論家
 昨年末に、私はインド太平洋戦略に関するいくつかの公開シンポジウムに参加する機会があった。それはこの広大な地域で航行の自由と法の支配を守って行こうという戦略である。文字通りに言えば、インド太平洋地域とはスエズ以東を指すが、政策論争のほとんどが南シナ海での中国の拡張主義に費やされるあまり、私にはこのグランド・ストラテジーがアジア太平洋戦略と混同、それどころか縮小しているように思えた。ほとんどの議論が中国の膨張に対して受動反応的(reactive)で、この地域に新しい秩序を打ち立てようという積極能動的(proactive)に思われなかったのは、そのためかも知れない。そこでインド太平洋戦略の背景をはじめから見てゆきたい。
 
 現在のインド太平洋戦略の原案は、日本の安倍晋三首相が2016年のTICADナイロビ会議で表明した。安倍氏はアジアとアフリカを結ぶシーレーンの重要性を強調し、日本はアフリカの開発と安全保障のためにも航行の自由と法の支配を推進してゆくと述べた。安倍氏の考え方は特に目新しいものではない。歴史上にはその先駆けがいくつもある。
 
 中世にはアラブ人をはじめとするイスラム商人が、アフリカから極東までの海上での物品および奴隷の貿易を支配した。植民地主義の時代には、大英帝国がスエズからシンガポール、香港、上海に至るシーレーンを防衛した。またイギリス海軍はアフリカからの奴隷輸出を阻止するために、法の支配の強制執行人となった。さらに最近ではブッシュ政権が拡大中東構想を打ち出し、イスラム過激派に対するテロとの戦いの遂行とこの地域一帯への民主主義の拡大を手がけた。
 
 こうした歴史上の先例と比較すると、現在のインド太平洋戦略には俯瞰的視野と一貫性が欠けているように思われる。中国は重大な挑戦を突き付けているが、私にはイランやテロといった中東およびアフリカの脅威も中国の地政学的野心と関連付けて見る必要があると思われる。さらに、この目的のための多国間の枠組みも考慮する必要がある。(つづく)
 
 
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