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2019-12-02 14:16

国が秘匿する船舶へのサイバー攻撃リスク

山崎 正晴 危機管理コンサルタント
 2019年11月18日、河野太郎防衛相は、訪問先バンコクでのエスパー米国防長官との会談で、日本は米国が呼びかける「中東海域での多国籍海軍による海洋安全保障イニシアチブ」には参加しないが、「調査・研究」目的で独自に自衛艦を「ホルムズ海峡を除く」中東海域に派遣する形で、米国と緊密に協力する方針であることを説明し、了承を得た。現在政府は、年明けの派遣開始を目指して調整中だが、そもそも、日本政府が、中東への自衛隊派遣を検討するきっかけとなったのは、今年6月にホルムズ海峡付近で発生した日本関係船への「加害者不詳」の攻撃だ。2019年6月13日朝、ホルムズ海峡付近を航行中の、日本の国華産業所有のタンカー「KOKUKA COURAGEOUS」とノルウェーのフロントライン社所有のタンカー「FRONT ALTAIR」がリムペットマイン(吸着型水雷)もしくは飛来物によると思われる攻撃を受け、両船で火災が発生した。海に飛び込んだ乗組員は全員救助され無事だった。

 この事件は、トランプ米大統領との仲介をすべく安倍晋三首相がイランの最高指導者ハメネイ師と会談した日に発生し、首相の顔に泥を塗る結果となった。米国政府は攻撃の責任はイランにあると断定したが、日本政府は米国に同調せず、イランに責任があることの証拠について更なる調査を求めた。イランは疑惑を完全否定している。国内では、政府発表でも報道でも全く触れられていないが、この海域では、イランによると思われる民間船舶へのサイバー攻撃被害が多発しており、米国政府は航行船舶に対して最大の注意を呼びかけている。2019年7月19日、ホルムズ海峡を航行中の英国籍タンカー「STENA IMPERO」が、イラン官憲により海洋法違反の容疑で拿捕された。この事案に関し、英紙ロイズリストは、拿捕に先立って、イラン側による本船ナビゲーションシステムへのサイバー攻撃が行われた可能性が高いと指摘。

 拿捕される直前の本船のAIS(自動船舶識別装置)記録を見ると、本船の実際の航路及び速度とは全く異なるデータを示しているが、これは、本船が搭載するGPS(全地球測位システム)がサイバー攻撃を受けて狂いが生じたためと考えられる、と述べている。この点について、米国政府関係者は、イランが Abu Musa 島に設置してあるGPS Jammer(GPS 撹乱装置)を使ったと断定。その結果、GPSに狂いが生じ、本船が意図に反してイラン領海に侵入して、拿捕または攻撃を受ける危険性が高まったため、船長はAIS のスイッチを切ったと考えられる、とコメントしている。イラン側は拿捕の理由について、本船は漁船と衝突したが、そのことを隠蔽するためAISをスイッチオフにした。この行為が、海洋法違反となったため拿捕したと主張。それに対して、「STENA IMPERO」の船長は、「イランが主張するような事実はない」と完全否定している。

 2019年8月7日、米国運輸省海事局は、「ホルムズ海峡及びペルシャ湾海域」においてイランによる民間船舶へのサイバー攻撃の脅威が高まっているとの警告を発し、「GPS撹乱」や「航行船舶への、米国や友好国の軍艦を騙ったニセの無線指示」などのサイバー攻撃被害が複数件発生していることを伝えている。話が前後するが、2019年6月23日付のCNNは、事情に詳しい米当局者と元情報当局者の話として、同年6月13日にホルムズ海峡付近で発生した日本とノルウェーのタンカー攻撃事件(上記)で、タンカーの追跡にイラン革命防衛隊とつながりを持つスパイ組織のコンピュータソフトが使われていたことが判明したため、米国サイバー軍司令部(USSC)は、そのソフトに対して報復攻撃を行ったと伝えている。現実を直視せず、国民に真実を知らせず、やられたらやり返す気概も能力も持たない政府に、日本商船隊の運命を託すことは出来ない。
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