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2019-11-21 17:12

(連載1)米中貿易戦争:中国の焦りと米国の算段

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 米中貿易戦争がなかなか面白い展開を示している。要因は香港のデモだけではない。中東では、米軍特殊部隊がバグダディを自殺に追い込んだ一件以降ISが中国に目をつけ始めているし、パキスタンやスリランカといった親中的なスタンスを取っていた発展途上国が中国との距離を見直す兆候を見せてもいる。
 
 周知の通り、中国共産党は一党独裁の組織である。もちろん党内には様々な派閥があるが、国家の統治権力を独占しているという点で、共産党は「独裁的存在」である。一党独裁で、強固な上意下達の関係が成立している場合、かりに上部の決定したことが致命的に間違いであったと判明した場合、それまで抑圧されていた不平・不満が一気に噴出し、政権転覆に等しい権力の移動が生じる。あの毛沢東でさえ、大躍進政策の失敗の後に一度失脚しているのだ。現在、その毛沢東に相当するのが習近平である。
 
 2014年に「一帯一路」を始動させ、経済成長率8%の維持を謳っていた習近平も、経済成長率6%前後の現状と「一帯一路」の前途の不明瞭さには頭を抱えているはずだ。毛沢東ですら一時失脚したことを思えば、習近平もいつ足元を掬われないかと不安を抱えているのではないか。さらに、ここにきて「一帯一路」の要衝たる中東での異変が生じたとあれば、そのハンドリングを誤れば、構想そのものの崩壊にも繋がりかねない。そうした中、「一帯一路」構想が多額のチャイナ・マネーに裏打ちされている以上、AIIBも融資額が伸び悩む中、米中貿易戦争で経済的に締め付けられている状況は、構想の大前提が揺らいでいるといっても過言ではない。
 
 そもそもの話をいえば、中国は、アメリカに対抗するための経済枠組として構想された「一帯一路」の原資を「合法性がかなり怪しい取得の仕方でアメリカから手に入れた知的財産権」を背景とした経済成長から稼ぎ出すという運営モデル自体に無理があったと自覚すべきところだ。とはいえ、今となっては「一帯一路」と「経済成長」を両立させるために、中国はアメリカとの貿易戦争を何とかするしかない。そして、それができると思っているのが現在の中国である。ではなぜ、中国共産党は、そうした矛盾した対外政策ができると思っているのであろうか。(つづく)
 
 
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