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2007-08-06 11:54

ふたたび「解釈改憲は無理」ーー安保法制懇提言を前に

角田勝彦  団体役員・元大使
 最近の新聞報道によると、集団的自衛権に関する個別的事例を研究している政府の有識者懇談会(安保法制懇)は、集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈を変更し、行使容認を求める内容の提言を11月中をめどに安倍総理に提出する方針を固めた由である。ただし参院選挙での自民党惨敗や行使容認への公明党の反対に鑑み、提言が提出されても、想定される自衛隊法改正や自衛隊海外派遣に関する恒久法制定などの法整備はできず、棚上げにされる公算が大きいとみられる由である。

 それまで数回に亘り本欄で「解釈改憲は無理」との主張を行ってきた私は、4月30日付本欄寄稿「集団的自衛権に関する有識者懇談会に望む」において、「会合が行われていない現在、討議の方向に予見を持つことは妥当でない。発表された懇談会メンバーに対し失礼でもあろう」としつつ「政治的議論は自民党などに委ね、法的議論を尽くすことを期待したい」と要望した。「提言」はまだ発表されていないが、安保法制懇の一員である北岡伸一氏は「現在の法制局見解は不適切という意見が大勢だ」と述べている(7月26日付読売新聞)ので、私見を表明しても尚早のそしりは免れよう。同氏は「検討は、いわゆる4類型を中心に行われている。たとえばその一つ、日本の上空を越えて友好国に向けて発射されたミサイルを日本が撃ち落とせる状況にあるとき、これを撃墜してよいかという問題について、法制局の解釈は、これは集団的自衛権の行使にあたり、許されないというものだった。だが懇談会の大勢は、そういう状況ではミサイルを撃墜すべきであり、それは集団的自衛権の行使にあたるが、憲法に抵触することも、日本に新たな危険をもたらすこともない、というものである」、「以上の安保法制懇の動きは、これまでの憲法解釈を柔軟に修正していこうとするものであって、憲法改正の動きと同じ方向を向いている」と述べている。

 しかし、実際問題としても法律問題としても、この例は「集団的自衛権の行使」に結びつける必要はない。弾道ミサイルが発射されるとき「米国向き」「日本向き」と名札がついている訳でもあるまい。発射直後のブースト段階であってさえ、軍事技術的に可能なら、座して死を待つことなく、個別的自衛で処理するのに遠慮は不要だろう。また、その際、米軍は手をこまねいているのだろうか。現状では、ミサイル発射は高度35,780キロの静止衛星軌道上にある米軍の赤外線監視衛星で感知され、早期警戒情報が自衛隊に伝達されるのである。また米軍は弾道ミサイルに対処できるイージス艦3隻を横須賀に配置しているが、海自のイージス艦に迎撃ミサイルSM3が搭載されるのは2007年末からなのである。法律的にも領空侵犯として処理できよう。平時でも自衛隊は侵犯機を着陸させ、または領空から退去させるため必要な措置を講じることができる。戦時の領空侵犯は、直接攻撃に当たり防衛出動で対応することになる。ミサイルの場合、撃墜は当然であろう。

 我が国に対する北朝鮮の核ミサイルの脅威は増大している。昨年7月5日北朝鮮はノドン(射程1300キロ)、スカッド(射程400~700キロ)、改良スカッドという射程の異なるミサイルを別々の発射地点から、飛行高度や搭載燃料を調整するなどして半径30キロの同心円上の海面に着弾させた。ノドンの弾頭には700キロ程度の爆薬が搭載できるが、積める重量が1トンを超せば、小型核の搭載は現実のものとなる(昨年10月に核実験)。ついでながら創設80周年を迎えた中国軍の攻撃力も増強されている。

 他方、7月25日米下院委員会は、わが国次期主力戦闘機(FX)の最有力候補である最新ステルス戦闘機「F22ラプター」について輸出禁止方針の継続を承認し、わが防衛省は明年夏に予定していたFXの選定を遅らせざるを得なくなった。その理由の一つとして、中国や韓国の反発を買うおそれがあることが挙げられたという。カトリック教諸国では「法皇様より法皇権重視」という言葉がある。解釈変更による「集団的自衛権の行使」を無理追いするより、今回の参院選で安倍総理がしかけたが不発に終わった憲法改正の論議を深めることが必要であろう。
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