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2019-10-31 20:30

アメリカを反面教師としたカナダの選挙結果

岡本 裕明 海外事業経営者
 日本国内で即位礼正殿の儀が行われていたころ、カナダでは注目の総選挙が行われました。結果はジャスティン トルドー氏率いる中道左派、自由党が過半数には届かないものの勝利し、トルドー氏が二期目の首相を務めることになりました。今回の選挙の注目点はいくつかありますが、まず47歳のトルドー氏と対抗馬の保守党党首、40歳のシーア氏の戦いだった点が興味深いと思います。40代同士の戦いは、なかなかないものでカナダの政界が若い人に権限移譲するスタンスを大事にしていることが見てとれます。これは、カナダが人口の1%を毎年移民として受け入れるというアメリカよりより強い移民導入策を持っているために比較的若い移民が流入していることが要因の一つではないかと考えています。

 通常の移民の要件は、カナダに経済的便益をもたらすことであり、当然ながら現役層で将来有望な人が主体となります(典型的な移民手段としては当地大学を留学生として卒業し、自動的に与えられるポスト・グラデュエーション・ビザで3年ほど働き、その間に移民権を申請するケースがあります)。次に、トルドー氏の様々な醜聞にもかかわらず自由党が157席と保守党の121席に大差をつけたことには正直驚いています。世論調査ではかなりの接戦で選挙前日あたりでも「コイン・トスのような情勢」(TD Economics)と分析されるほどでした。事後の分析をするならば、自由党の明白で受けの良い政策に対して保守党が何をどうしたいかはっきり打ち出せず国民の心に響かなかったことが影響した消去法的選択だったように感じています。

 なぜ、保守人気が出なかったかといえばトランプ大統領の間接的影響があるとみています。実はカナダ人は、アメリカに対して心の底ではかなり冷たい意識を持っています。アメリカには歴史的に反面教師的なところがあり、反発心があったのではないかと考えています。例えば、カナダで行われたサミットで、トルドー氏の議長宣言をシンガポールに行く飛行機で聞いたトランプ大統領が袖にした一件がありました。あれはカナダ国民のアメリカへの感情を急激に冷やしました。では過半数の170議席を取れなかった自由党の今後の政権運営はどうなるのかです。これもカナダらしいのですが、一応、野党新民主党(24議席)や緑の党(3議席)にある程度接近するとは思いますが、積極的なアライアンスはしないとみます。

 現状では、議会運営は案件ごとに検討すると見られています。考えてみれば、アメリカは二大政党でどちらかしかなく、ねじれれば法案などが通りにくくなる仕組みです。対して、過半数を割っている自由党が政権運営をするにあたって法案可決が妥当であれば野党の賛意は取れるという考えに自信があるならば、それは誰のための政治なのかより明白であるとも言えます。ただし、自由党はこれではドラスティックな政権運営はできません。私は、カナダはとても良い国だけれど社会的変化は非常に緩慢になるとみています。トルドー氏の数々の失敗を国民が許したのはハンサムで憎めない性格だからなのでしょう。そうだとすればカナダ人はとても優しい国民性だということを改めて裏付けたように感じます。
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