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2019-09-30 12:07

(連載1)日米同盟をも弱体化させる米欧間の亀裂

河村 洋 外交評論家
 日米同盟は太平洋地域での安全保障上のパートナーシップだとの想定が一般的だが、本稿ではこの戦略的な要石を大西洋側から眺めてみたい。そのために、マイク・ポンペオ国務長官が昨年12月のNATO外相会議出席の際に、ドイツ・マーシャル基金のブリュッセル事務所で行なった演説に言及したい。トランプ的世界観そのもの彼の演説はヨーロッパ諸国に不快感を抱かせた。なにより、ポンペオ氏がきっぱりと否定した多国間主義と地域協力による世界平和こそ、ヨーロッパを第二次世界大戦前の敵対的な大国間の競合から解放したからだ。ポンペオ氏は、さらにEUは多国籍の官僚機構が支配する政治形態で、主権国家と市民は犠牲にされているとまで述べた。こうしたポンペオ氏の発言によって米欧間の亀裂はきわめて大きく広がりつつあり、今やリベラル世界秩序の基盤は以前にもまして脅かされているといえる。
 
 ただし、ポンペオ氏のブリュッセル演説は、アメリカの外交政策専門家の間でも否定的に評価されている。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は「ポンペオ氏の演説では、イスラエルの学者で極右のヨラム・ハゾニー氏が主張するように、民主主義が自由主義でなくナショナリズムに基づくと述べられた」と指摘する。外交問題評議会のスチュアート・パトリック氏はポンペオ氏の「原則あるリアリズム」をさらに厳しく批判している。まずポンペオ氏の発言について「EU、国連、世界銀行、IMFといった、アメリカが支援あるいは創設してきた多国間機関を批判する一方で、トランプ政権が同盟国の間でのアメリカの評価をどれほど悪くしているかについては言及していない」との矛盾を指摘している。
 
 そして多国間主義に関しては「官僚機構を通じた手続きの過剰な負担を増大させ、アメリカの外交での主権に基づいた行動を制限してきた、というポンペオ氏の見解とは逆に、多国間協調は互恵的で国際舞台でのアメリカの優位にもつながった」と主張する。EUに関しては「国家主権についてのポンペオ氏の見解は根拠薄弱で、加盟国は全体の意思決定に最も強い影響力がある」に反論している。さらにポンペオ氏が他の国際機関についても同様に間違った認識を抱いていることも指摘している。さらに重要なことに「ポンペオ氏は世界秩序もアメリカの指導力も守る気はなく、長年にわたるアメリカの同盟国を邪魔者扱いしているようなトランプ氏の言動には触れずに、ただ大統領の言い分を正当化しているだけだ」とまで切り捨てている。
 
 こうした指摘は、G7ビアリッツ出席を前にトランプ氏が発した「同盟国は敵国よりもはるかに我が国を利用している」という侮辱的な一言に典型的に表れている。EUは「平和と和解、民主主義と人権に対する取り組みでの成果」によって2012年にノーベル平和賞を受賞した。それは西ヨーロッパでの多国間協調を進化させただけでなく、ポスト共産主義時代の東ヨーロッパでも自由の価値観を広めたからである。このようにヨーロッパは大西洋社会での共通の価値観を守護しているのに対し、アメリカはそうした価値観を捨て去ろうとしている。大西洋側から見れば日米同盟は脆弱になるばかりである。こうした事情から、日本国際フォーラムがアメリカ国防大学とアトランチック・カウンシルとともに発行した日米共同レポート『かつてない強さ、かつてない難題:安倍・トランプ時代の日米同盟』を見直すには良い時期だと思われる。(つづく)
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