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2019-09-28 13:58

カナダの公的年金基金がインドネシアに投資する意味

山田 禎介 国際問題ジャーナリスト
 日本の公的年金の海外運用について、莫大な一時的損失を生んだことがかつて報道されたが、筆者は門外漢でそのことは詳しくは知らない。だが最近海外の公的年金の運用ぶりについて興味深い事実を知った。それは北米カナダの公的年金基金が行っている海外投資・運用ぶりである。公的年金基金を運用するカナダ年金制度投資委員会は、年金支払い分を除いた余剰資金を、世界の9つの海外事務所で対外直接投資を行い、運用している。6月末の時点で、249億6000万ドルを世界のインフラ資産に投資しているという。このカナダ年金制度投資委員会が、インドネシア首都圏の有料高速道路に対し、その運営参入というかたちで、直接投資を行うというのだ。

 首都ジャカルタ隣接の西ジャワ州にある全長1167キロのこの有料高速道路は、インドネシア・ジャワ島の交通ネットワークの重要なリンクとなるものという。カナダ年金制度投資委員会がここに投資するのは、インドネシアで最も人口密度が高く、経済生産性の高い地域の1つであり、自動車普及率が上昇している地域とみたからだ。実際、インドネシア国民のマイカー熱はかつての日本を思い出すほどだ。この有料高速道路の施設等運営権者の45%の株式を取得するかたちで、インドネシアへの初のインフラ投資を行うことになる。このカナダの高速道路への投資で、現地パートナーとなる施設等運営権者は、インドネシアを代表する華僑系複合企業の一部門。

 カナダのこの投資計画はインドネシア規制当局の承認など、地元の慣習・条件に従って承認され、実現する予定だ。カナダ年金制度投資委員会は現在さらに、インドのファンドであるシュリラム・キャピタルの株式購入に関心を寄せているという。その投資額は約25億ドルから30億ドルになる可能性がある。カナダ年金基金のこの海外投資・運用の動きは、安定した年金配当を目指す努力と言えばそうだが、インドネシアの場合、投資参入のパートナーとして組んでいるのが、巨大な資産を持つインドネシア華僑財閥であることが気になる。現在、東南アジアでは高速道路建設と運営が財閥の手で行われていることが顕著だ。

 日本ではフィリピンのサンミゲルというビール・ブランドのみ知られるが、華僑に始まるサンミゲル財閥は、有料高速道路から、なんと国際空港建設運営まで手掛けている。日本の公的年金の海外運用は、よもやこのような途上国分野にまで及んではいないと思うものだが、かつて「一粒で二度おいしい」というTVコマーシャルがあったのを思い出す。列強の18世紀からの植民地収奪・搾取と、はるかなるいまの二度、かたちを変えた利益吸い上げのようにも取れなくもないのではないか。かつて南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)に強固に反対していた英労働党の関連団体は、当時、国際世界からの非難を浴び続けていた南アにひそかに資金を投入、運用していた。アングロサクソンの行動には、とりわけ巧妙な裏表があるのを忘れてはならない。
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