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2019-09-24 14:09

(連載1)首相解散権の制約こそ英国混乱の原因

篠田 英朗 東京外国語大学大学院教授
 今月中旬に欧州に行ったため、イギリス政治の混乱を間近で感じた。この混乱は、ブレグジットに関する国民投票から発生したのだが、改めて思うのはむしろ、首相解散権の持つ機能だ。イギリスは、首相から解散権を奪うという実験を行った。そのために失敗しているのだ。
 
 2011年議会任期固定法は、内閣不信任決議に対する解散権行使か、下院の3分の2以上の賛成による自主解散によってしか、議会が解散されないことを定めた。つまり首相から議会の解散権を事実上取り上げた。 2010年のイギリス下院選挙において、どの政党も過半数の議席を獲得することができず、「ハング・パーラメント」の事態が起こったとき、保守党が自由民主党に譲歩して連立政権をつくるために実施を約束した措置だ。
 
 首相に解散権がない場合、首相は議会に妥協し続けるしかない。素朴な単純理論では、首相は議会の多数派の信任を得て首相になっているはずではある。しかし実際には、議会の多数派が、個別の政策では首相に反対するかもしれない。最悪の場合、今回のブレグジット騒動が劇的に示したように、首相に反対する点で大同団結する議会の多数派が、実際には政策的な統一性を全く持っていない場合すら起こりうる。その場合、どこにも政策を調整する原理が働かないままの状態が続く。政策の実効性を確保するために「議会を解散して民意を問う」という手段がとれないために、何も決められない状態が延々と続いてしまうのである。
 
 ブレグジットに関する2016年国民投票は、2011年の議会任期固定法の一つの論理的帰結であった。2015年に行われた総選挙の際、デービッド・キャメロン首相は、EU離脱の是非を問う国民投票を行うことを公約してしまった。理由は単純で、保守党内部のEU離脱派の支持がなければ、保守党もバラバラで、政権維持ができなかったからである。伝統的なイギリス政治の考え方に沿って言えば、国民投票ではなく、EU残留の是非を問い直す解散総選挙を行うべきであった。(つづく)
 
 
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