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2019-09-18 15:18

(連載1)日韓関係悪化はアメリカ弱体化の兆候である

古村 治彦 愛知大学国際問題研究所客員研究員
 北東アジア問題に関する米国の専門家スティーヴ・クレモンス氏が、ある雑誌で「現在の日韓関係の悪化はアメリカの弱体化の兆候だ」という興味深い見解を披露しています。つまり、アメリカの存在感と影響力が以前のように大きければ、日韓関係の悪化も防ぐことが出来たはずだが、今ではそれはもう望むべくもない、というわけです。以下ではこの議論を題材にして、今日の日韓関係の捉え方について論じたいと思います。まず今回の日韓関係悪化は、韓国の最高裁が、徴用工問題に関して、当時、現地で経済活動を行っていた日本企業に対し賠償金の支払い命じる、あるいはその財産の没収をする、という判決を出したことが発端となりました。
 
 日本政府は、日韓国交正常化(1965年)の際に請求権問題は解決しているという立場ですから、当然、そのような判決は認められないという立場です。韓国政府としても、同様に、国交正常化に際して日本が韓国に支払った経済協力金(実質的な賠償金)には徴用工を補償するための資金も含まれている、という立場です。である以上、今回の最高裁の判決には当惑したものと思われます。しかし、韓国では(日本ももちろんそうですが)三権分立の大原則が成立していますから、司法の独立が尊重されますので、韓国政府であっても、最高裁の判決を変更することはできません。
 
 ちなみに本題からはやや外れますが、この韓国最高裁の判決を考える上でのポイントの一つは、戦後賠償をめぐる国家レベルでの補償の請求権と、個人レベルでの補償請求権の関係にあるといえます。この問題をめぐる議論は、かつて日米間についても発生しました。日米両政府はサンフランシスコ講和条約で相互に請求権を放棄したわけですが、これに対し日本の原爆被爆者は、アメリカに被害の補償を請求できなくなったとして日本政府を提訴しました。これに対し日本政府は、「外交保護権(自国民の被害に対して政府が外国政府に補償を求める権利)」は放棄したが、被爆者個人が請求する権利は放棄していない、という立場を取りました。これを日韓のケースに当てはめると、韓国の徴用工や慰安婦についても日本に対する個人請求権は否定できないということになります。
 
 しかしその後、日本の裁判所では、個人の請求権も認めないという判決が出て、それ以降、韓国や中国の元徴用工や慰安婦、戦時中に被害を受けた人たちが日本の裁判所に訴えても、請求は認められないということになりました。いずれにせよ、この韓国の最高裁判決をきっかけに日韓関係が悪化したわけですが、そうした中、日本政府は、日本が韓国に輸出している軍事転用可能な物資や技術について、その最終輸出先に不安があるという理由(北朝鮮に渡り各開発プログラムに使われる危険性がある)から、半導体の原材料の日本から韓国への輸出規制を強化するために、韓国を輸出規制に関して優遇措置が受けられるホワイト国から除外しました。(つづく)
 
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