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2019-08-28 16:36

(連載1)文在寅は韓国をどこに連れていくのか

松川 るい 参議院議員(自由民主党)
 GSOMIA破棄を韓国が決定した。ついにここまで来てしまったかと暗澹たる気持ちになる。韓国は、今後とも、「我々の側」(日米)にいるのか、それとも、将来的には、南北統一を前提に「大陸の側」(中国)に戻っていくのか、ますますわからなくなった。後者の可能性が結構高いと思う。もちろん、単に、「北朝鮮については、もはや日米韓はない」という限定的なメッセージに過ぎない、とか、日本を排除して、「南北朝鮮プラス米国」を想定しているのかもしれないが、実際問題、日本との協力を抜きにして、東アジアの安全保障体制やインド太平洋戦略を実施することは難しいので、意図はともかく、解決ができないまま時間がたてば、結果的には、韓国は米国の陣営の中では相当、あちら側に近い存在となっていく可能性が高い。
 
 GSOMIAは、日韓の軍事機密情報共有を可能とする協定であるが、北朝鮮の軍事機密情報を日米韓でリアルタイムに共有する上で有用であることから、日米韓の安保協力の象徴のような存在である。したがって、その破棄は実質もさることながら対外的に日米韓安保協力の綻びを印象付けるという意味で、深刻である。また、韓国が米国の要望も聞き入れなかったということは、米国の威信の陰りを示すのみならず、米韓同盟にも悪影響を及ぼすだろう。したがって、韓国にとって、北朝鮮を短期的脅威、中国を中長期的脅威と考えるのであれば、GSOMIA破棄は、韓国自身の安全保障上の利益に反する行動である。韓国が合理的行動をとったと捉えるのであれば、韓国は北朝鮮も中国も長期的には脅威とならないと考えていることになる。いずれにせよ、今回のニュースを聞いて一番喜んでいるのは、中国だろう。東アジアにおける米国の影響力の低下を感じさせるからである。折しも、「中国版GPS網が米国を抜いて世界最大に」など、米中の冷戦の勝者は米国ではないのではないかと思わせるようなニュースも出てきている。北朝鮮は、喜ぶと同時に、文在寅大統領が南主導の南北統一を真剣に考えているのではないかと、心中複雑なのではないかとも推察する。
 
 今回のGSOMIA破棄決定は、文在寅大統領のイニシアティブだろう。GSOMIA破棄は、安全保障のプロや外交のプロの発想からは当然には出てこない(「個別部署ではなく政府全体の判断」というカンギョンファ長官の発言も「私は賛成じゃなかったのだけど」的ニュアンス)。北朝鮮を韓国に対する脅威と考えるのであれば、日本以上に韓国自身の安全保障にとっての不利益となるからである。韓国のメディア論調も延長ありの想定であったし、最近会った与党系(共に民主党系)の元議員達との言説からも、「GSOMIAは米国との関係もあるので維持されるに決まっているので心配するな」との見解が圧倒的であり、文在寅大統領が、国内世論に抗せざるを得なかったという状況では全くない。むしろ、国内世論もGSOMIAは気に入らないけど延長でもしょうがないよね、という論調の中、文大統領が国民の予想に反してGSOMIA破棄を決定したのである。今後、韓国世論がどうなっていくのか注視していきたいと思う。
 
 それでは、文在寅大統領は、何を考えたのか。単純に考えれば、「日本も安全保障上の措置というなら、日本のホワイト国外し決定に対する対抗措置として、安保分野のGSOMIA破棄をして、米国及び日本に対して圧力をかけ、ホワイト国外しを撤回させるため」、とか、「日本の暴挙に対して、韓国の意地を見せる」といったところであろう。韓国としては、GSOMIAは、日本が望むから締結したのであって韓国としては嫌々締結したものだという認識だ。韓国も利益を得るのにおかしな話だが、韓国は、日本との安保分野の協力には過去の歴史から強いリザベーションが元々ある。私が韓国に赴任していた2012年頃にも、ほぼ締結寸前にいったが、日韓関係の雰囲気が悪く直前で頓挫した記憶がある。ようやくパククネ政権の最後の最後になって成立した。(つづく)
 
 
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