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2019-08-19 02:20

(連載1)第1回「欧州政策パネル」に参加して

河村 洋 外交評論家
 さる7月24日にグローバル・フォーラムが開催した第1回「欧州政策パネル:欧州議会選挙後の欧州の行方――デモクラシーの底力」に参加しました。以下では、その感想と若干の問題提起をしてみたいと思います。今回の政策パネルでは本年の欧州議会選挙において、一昨年から昨年にかけてオランダ、フランス、ドイツ、イタリアの国政選挙で見られた極右ポピュリズムの勢いは頭打ちとなったことが確認され、非常に有意義でした。ただ各国の国政選挙と欧州議会選挙では、実際の投票者層がどのように違ってくるのかという疑問も新たに浮かびました。さらに、ヨーロッパの民主主義の問題は大西洋を隔てたアメリカおよびカナダの問題とも相互に深く関わり合っています。
 
 よって今後はアメリカ政治の専門家も交え、より巨視的な「欧州・大西洋地域の民主主義の危機」というテーマでの研究発表があれば、政策的にも学術的にもさらに刺激的になるとも思われます。欧州・大西洋地域における民主主義に関しては、ロシアのプーチン政権の世界戦略とそれに呼応する欧米の極右ナショナリズムの勃興が最大の脅威となります。ロシアと結び付いた極右ナショナリズムは民主化の歴史が浅い東ヨーロッパ諸国から広まり、やがてはブレグジットやトランプ現象まで及んだことは周知の通りです。そうしたなか、私はとくに以下の問題点を挙げてみたいと思います。
 
 第一は、クレムリンと欧米の極右が共鳴し合う新たなイデオロギーで、戦後世界秩序の根幹ともいえるリベラル民主主義の否定です。これは共産主義に代わる権威主義の理念ですが、大西洋地域での地歩回復を狙うロシアの地政学戦略という側面もあります。この戦略とネオ・ユーラシア主義の組み合わせは目が離せません。よってロシアとリベラル民主主義諸国とのイデオロギー抗争の裏にある地政学的抗争も踏まえて欧州・大西洋地域の動向を注視する必要があります。
 
 第二は「白人・キリスト教文明の伝統」を背景とした欧米の極右とロシアの蜜月の持続性です。現時点では、リベラル民主主義に対するグラスルーツ・ナショナリズムの抵抗運動ということで両者の立場は一致しています。しかし、さらに「白人・キリスト教文明の伝統」という切り口からみると、プーチン政権の基盤でもあるロシア正教と西側のキリスト教、特にプロテスタントとの世界観の相違は非常に大きいという点が表面化すると思われます。帝政時代から「皇帝崇拝」の伝統を引き継ぐロシア正教に対し、権力からの自立志向が強いプロテスタントは「小さな政府」の思想とつながりがあるからです。そうした宗派の違いを超えたロシアと欧米極右による「白人・キリスト教文明の連帯」への理解を深めるためにも、キリスト教と右派ポピュリズムの関係解明は重要と思われます。(つづく)
 
 
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