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2019-08-05 21:15

(連載1)リベラル国際秩序の自壊を防げ

河村 洋 外交評論家
 今日、リベラル国際秩序が直面している最大の危機は、専制国家の挑戦が世界的に強まる一方で、そうした国際秩序の担い手であるべき西側の自由民主主義諸国が自分達の体制や価値観を信用しきれなくなっていることではないだろうか。この点、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏が、本年3月に刊行された「The strongmen strike back」と題する政策レポートで興味深い分析をしているのでご紹介したい。
 
 まずケーガン氏は、自由民主主義は、外部からと内部からの二つの挑戦を受けてきたと指摘している。このうち、外部からの挑戦については、自由民主主義諸国にとって、その最大の脅威となっているのは権威主義そのものだという。歴史的には、自由民主主義は、封建社会の色彩を色濃く残したプロシア等の権威主義国家との闘争を余儀なくされた。そうした国とのイデオロギー対立の末に、フランスやアメリカなどの自由民主主義諸国が、自国に残存する権威主義的要素を克服し、その自由民主主義的要素をさらに洗練させた。やがてこれらの自由民主主義諸国は、20世紀に入り、2度の世界大戦にて権威主義諸国に勝利を収めることになった。
 
 しかしながらこの勝利は、現実の戦争における勝利であって、自由民主主義が権威主義をイデオロギー的に屈服させたということは意味しない。それゆえに、権威主義に代わって台頭したソ連共産主義が冷戦を経て西側諸国に敗れたあと、ロシアや中国などの専制国家が権威主義的体制を強化し再び国際社会で立場を強めたわけである。したがって自由民主主義は、いまなお、外部的な権威主義に脅かされていることになる。では、自由民主主義が受ける内部からの挑戦についてはどうだろうか。ケーガン氏は、極右ポピュリズムや部族主義などに基づく排他的ナショナリズムといったものを念頭に置いているようだ。
 
 ケーガン氏は、権威主義国家との戦いにおける西側自由民主主義諸国のアキレス腱は、地政学的競争よりも、イデオロギー戦争における脆弱性にあり、それはとりもなおさず自由民主主義諸国内在するこのようなナショナリズムだと考えている。たとえばハンガリーのオルバン首相が白人キリスト教徒の思想的伝統を強調したり、イスラエルの哲学者ヨラム・ハゾニーが「普遍的な自由主義に対して諸国民が連携して抵抗せよ」と呼び掛けたりしている例がそうだが、こうしたナショナリストの間で共鳴する部族主義は確かに自由民主主義社会で再生産され続けている。こうした傾向は、アメリカにおいても見られ、とくにトランプ大統領の思想的基盤はこのようなナショナリズムにあると言われている。(つづく)
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