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2019-06-10 10:50

高まる米中緊張、深まるアジアの憂慮

鍋嶋 敬三 評論家
 シンガポールで5月31日~6月2日に開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)は米中の軍事、貿易の対決機運がピークを迎える中で、安全保障と経済関係への影響を含めアジアの憂慮が一層深まったことを示した。米国のシャナハン国防長官代行が「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現のため、安全保障と経済の相互依存関係の重要性を訴えた。「経済安全保障は国家安全保障」とする立場だ。トランプ政権下で経済と安保のリンケージが強まったことで米中摩擦が激化、メキシコとの移民摩擦でも関税引き上げの「脅し」で露わになった。同政権は「国家安全保障戦略」「国防戦略」で中国を「現状変更勢力」と規定した。シャナハン氏は中国の脅威の本質は経済、外交、軍事を使った「自国に有利な国際秩序の再編成にある」と断じた。
 
 米国は南シナ海で頻繁に「航行の自由作戦」を行い、5月にはインド洋で米仏日豪4カ国海軍の合同演習を実施したばかりである。フランスが空母「シャルル・ドゴール」、日本からは海自最大のヘリ搭載護衛艦「いずも」が参加、同盟国・有志国の結束を誇示した。シャナハン氏は演説で「インド太平洋」に24回も言及した。この地域が「米国の最優先の地域」であり、「敵対国が軍事力によって政治目的を達成できると信じないよう」にと、中国やロシアに警告を発したのである。一方、中国の魏鳳和国務委員兼国防相は最終日の講演で正面から米国への対決姿勢を示した。トランプ政権が台湾関係法に基づき、武器売却、高官の交流など台湾との関係を強めているとして、中国と台湾の「切り離しにはどんな犠牲を払っても戦う」と宣言。中国の国防力は常套句の「自衛のため」と言いつつ、「人民解放軍を過小評価するな」「武力行使の放棄は決してしない」と強硬姿勢をぶつけたのである。
 
 魏国防相は南シナ海について地域外の国(米国)が「航行の自由作戦」の名の下で安全と安定を脅かす「最も重大な不安定要因」と断定し、強烈な警戒感を示した。米中貿易摩擦についても「米国が闘うと言うなら、中国は最後まで闘う」と強硬姿勢を鮮明にした。その一方、2019年が中米国交40周年に当たることも指摘、相互尊重とウインウインの協力の原則に従って「中米関係を正しい方向に舵取りすることを望む」とも述べている。原則は一歩も譲らないが、妥協の余地もあるとのシグナルを送り、とことん対決を避けたい本音がうかがわれる。米中貿易摩擦の激化で経済減速を警戒するアジア諸国にとって米中対決の激化は望むところではない。地域の不安定化は国家基盤の弱いアジア諸国の発展を阻害するばかりである。
 
 毎年、シャングリラ対話の場を提供してきたシンガポールのリー・シェンロン首相は初日の基調演説で米中間の基本的な問題が「戦略的信頼の欠如にある」と喝破した。「中国の経済成長が世界の戦略バランスを変えた」として、中国は力による脅しではなく、他国の核心的利益を尊重して外交で解決すべきだと説く。米国内では政権だけでなく、「中国封じ込め論」などの否定的な見方が議会などエスタブリッシュメントに広がったと見ている。米国が多国間主義への信頼を失った一方では、中国の指導部も国内の強い圧力に直面して極めて「内向き」になっていると指摘。政治的妥協は極めて難しいとしても「究極的には和解して国内を説得することが米中双方の利益になる」と米中トップの戦略的決断を促した。このようなアジアの声が6月下旬のG20首脳会議(大阪サミット)に反映され、トランプ大統領と習近平国家主席の二人が耳を傾ければ、緊張緩和に向けて動き出すことも可能だ。議論を主導する立場の議長国日本の安倍晋三首相の力量に期待したい。
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