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2019-05-07 12:42

「令和」幕開け、変化に迅速対応を

鍋嶋 敬三 評論家
 日本は時代の変化にスピード感を持って対応しなければならない。天皇の退位(4月30日)及び即位(5月1日)という歴史的な出来事を経て「令和」の時代が始まった。新元号は好感を持って国民に広く受け入れられた。世界で唯一の元号制度は「時代」を意識する役割も担う。5月4日の皇居一般参賀には14万人が参集、祝意を表した。天皇が「国民統合の象徴」として定着し、日本人の心の拠り所として国の「スタビライザー(安定装置)」の機能を十分果たしている。しかし、皇室の現状は皇位継承権者が常陸宮さま(83)を含め3人にまで減少した。この危機的状況から目を背けるわけにはいかない。2005年に当時の小泉純一郎首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」は女性・女系天皇を認めるとともに、女性宮家創設を盛り込んだ報告書を提出した。2017年6月、天皇退位を実現する皇室典範特例法の付帯決議で「女性宮家の創設等」を検討し、国会に報告するよう政府に求めた。政府は皇室の安定的な維持のための制度改革に速やかに行動すべきである。政治に課せられた重大な責任であり、怠慢は許されない。
 
 世界に目を向ければ、第二次世界大戦後の国際秩序が大きく揺らいでいる。英国は欧州連合(EU)離脱問題に伴う混迷、欧州を覆うポピュリズム(大衆迎合主義)と国内の亀裂、米国の一国主義、中国、ロシアの軍事力強化、北朝鮮の核・ミサイル開発など情勢不安定化の懸念はますます強まる。技術革新に乗り遅れた企業や産業は姿を消す。政治も経済も安全保障も互いに切り離せないのが現実の世界だ。中国が進める広域経済圏構想「一帯一路(OBOR)」は予想を上回る速さでアジアから中東、欧州、アフリカへと勢力圏を広げている。米国防総省は中国軍事力に関する議会への2019年次報告書(5月2日公表)で「OBOR構想はおそらく軍の海外配置を推進することになるだろう」と指摘した。大国が海外での経済権益を守るためと称して軍隊を派遣するのが常套手段であることは歴史が示す通りである。
 
 人工知能(AI)、生命科学、宇宙など技術革新はあらゆる分野においてブレークスルー(飛躍的進展)が起こり、国家間の格差が拡大することは必至である。技術格差は経済発展を阻害し、国の安全保障に直結するという認識が日本の政治には特に希薄である。民主党政権下の「事業仕分け」でスーパーコンピューターが世界一でなく「第2位ではいけないのか」などの発言が政権幹部から出てきたのはその典型である。その背景には大衆迎合主義がある。世論受けを狙った劇場型政治は国の針路を誤まり、国民に付けとして回ってくる。議会制民主主義(代議制)の手本であった英国はEU離脱の可否を国民による直接投票に委ねたことで国家が進退窮まるという過誤を犯した。
 
 これは英国だけの問題にとどまらず、世界金融の中心地ロンドンからの企業の逃避、拡大を続けてきたEUの弱体化につながっている。ソ連邦崩壊によって失った東欧の失地回復を目指すロシアにとって「棚からぼた餅」の情勢であろう。「一帯一路」を進める中国の欧州進出もその一環である。国家の取るべき正しい選択とは何か?単一のテーマについて住民の直接投票で「民意を問う」と軽々しく口にする政治家はその結果が自らにも、そして何よりも国家の安定そのものに向けられることを知らないのだ。議会制民主主義の下で合意には時間がかかる。しかし、「合意形成」の名の下に、必要な法案が成立せず政策推進ができなければ、激しい世界の動きから取り残される。かつての「ねじれ国会」の結果がそれを証明している。時代の変わり目に当たり、憲法改正をはじめ内政、外交、安全保障について的確な内外の情勢認識に基づいたスピーディーな政策決定こそ肝要である。
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