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2019-04-03 17:00

「働き方改革」に望むこと

山崎 正晴 危機管理コンサルタント
 4月1日付で(中小企業では2020年4月から)、安倍内閣が推進してきた「働き方改革法」のうち「残業の上限規制」が、懲役を含む罰則付きで施行された。これは、長時間労働をなくすことで仕事と家庭生活の両立を可能にし、女性や高齢者が仕事に就きやすい環境をつくり、国民の労働参加率を高めることを目指したもの。20年以降には正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止も実施し、労働意欲の向上を図る考えだ。これにより、企業経営者には残業を減らし、非正規労働者の待遇改善も行いながら、生産性も向上させることが求められる。この社会的要求に応えられなかった企業は淘汰(とうた)され、創意工夫で乗り切った企業はより強くなる。

 このような思い切った改革の背景には、深刻な少子高齢化がある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、13年には約8000万人だった生産年齢人口(15―64歳)が、60年には4418万人と約半分に減少することがほぼ確実視されている。既に深刻化している労働者不足対策として、政府は19年4月から25年までの6年間に、一定業種で外国人単純労働者50万人超を受け入れることを決定している。もし、今後毎年同じペースで外国人労働者を受け入れた場合、60年までに合計400万人の外国人が日本で働くことになる。それでも、不足する労働人口4000万人の10分の1でしかないが、総人口に占める割合は5%に達する。15年の欧州難民危機で100万人を超える難民を受け入れたドイツには、現在総人口の19・5%に当たる1500万人の外国人が居住しているが、国内各地で住民との間にあつれきを起こし、ネオナチによる暴力や移民排斥暴動が多発。18年10月の総選挙では移民排斥を主張する極右政党が躍進し、メルケル首相は与党の党首辞任を余儀なくされた。
 
 そのような危機感を背景に、就労人口を増やすことを目指して実施された「働き方改革」だが、労働者の数だけそろえても、「勤労意欲」が高まらなければ生産性の向上は期待できない。18年3月にリクルートキャリアが発表した「働く喜び調査報告書」によれば、「1年間に働く喜びを感じていた人」の割合が、調査を開始した13年の44・2%から17年の36・1%へと年々減っている。興味深いことに、「1年間に働くつらさを感じていた人」の割合も13年の61・2%から17年の57・8%へと減少傾向にある。この2つの結果を合わせると、調査対象となった15歳から64歳までの男女約1万人の半数以上がこの5年間、仕事の喜びも期待も持たず、ただ生きるために働いてきた姿が見えてくる。これを「不幸」と呼ばずに何と呼べばいいのか。3月20日は「国際幸福デー」だった。この日、国連が発表した「世界幸福度ランキング2019」を見ると、日本は156カ国中58位で、15年の46位から5年連続のランクダウンだった。幸福度は1位フィンランド、 2位デンマーク、 3位ノルウェー、4位アイスランド、 5位オランダ、 6位スイス、 7位スウェーデン、8位ニュージーランド、 9位カナダ、 10位オーストリア。

 日本より不幸なのではと勝手に想像していた韓国(54位)、タイ(52位)、ニカラグア(45位)、コロンビア(43位)、メキシコ(23位)などが日本より上位にいることに衝撃を受ける。見ず知らずの他人から「おまえは不幸だ」などと言われる筋合いはないが、ここは謙虚に反省材料として受け取っておこう。働き方改革に水を差すつもりは毛頭ない。だが、その目指す方向に一抹の寂しさを感じるのは筆者だけだろうか。あえて批判を覚悟で言えば、安倍晋三首相が嫌いなモーレツ社員時代が懐かしい。先輩に命令され無理矢理残業、夜中に遠くまでビールとたばこを買いに行かされたこと、机の下のごろ寝で2泊したこと、3次会の後に上司の家の玄関で眠ってしまったこと、忘年会で部長のはげ頭をたたき、その部長も専務の前で裸踊りをやって、翌日2人で専務に謝りに行ったこと。当時は幸せだったと正直思う。このような濃密な人間関係があったから、辛い仕事にも耐えられた。今後の「働き方改革」に、主人公である国民一人一人が安心できる居場所を持ち、かつ、つながっていられる職場環境づくりが加えられることを切に願う。
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