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2018-12-18 14:07

「戦後政治の総決算」たる出入国管理法改正

伊藤 洋  山梨大学名誉教授
 「全国都道府県の正職員採用試験の障害者枠について、障害者雇用促進法では精神(発達障害を含む)・知的障害者の雇用も義務づけられているにもかかわらず、35道府県が身体障害者に限定していた。毎日新聞の調べで判明した。障害者団体は『精神・知的障害者を行政が不当に排除している』と批判している」(2018年11月26日『毎日新聞』)。
 
 現実に知的障害者や精神障害者を採用しているかどうかは不明だが、一応募集段階で「身体・知的・精神」の三障害の全てに門戸を開いている都道府県は東京・神奈川・新潟・鳥取・島根の5都県のみ。率先垂範すべき地方自治体がかくのごとくノーマリゼーションに背を向けてきたという状況は寒心に堪えない。すでに、この当然の帰結として先の厚労省全国調査によれば、全国ほとんどの自治体で障害者採用実績報告に虚偽のデータが含まれていたという。ことは「障害者」に限定されるものではなく、こういう冷淡さは、普遍的に「弱者」一般への冷淡さにつながっているはずであり、この国の住みづらさ、生きづらさの原因がこんなところにも潜んでいるのであろう。

 「情けは他人の為ならず」と言う。いま、出入国管理法改定が国会で風雲急を告げている。自民・公明の安倍政権が気違いじみてこれを急ぐ理由は、苛烈を極めている求人難、1.6倍の有効求人倍率は経済界にとって呼吸困難に至るほどの窮状であるからである。なにしろ、ここ毎年、65歳を一期に第一線を退出する敗戦直後の第一次ベビーブーマーのその数255万人に対し、彼らの孫の世代に相応する今年社会人になった青年男女は120万。去る人・来る人の圧倒的な数の違いが原因で、人口の単調減少が続く限りこれが当面基調の人手不足となる。これに恐れた財界の止み難き願望が外国人チープレーバーの導入である。

 そして、この安直な解決手段こそ、弱者への冷淡さ、結果として障害者への冷酷さと同根である。であれば、外国人労働者の導入は、究極的に日本人労働者への低賃金や採用条件の劣悪さへとずり落ちていく動機を刺激していくことは間違いあるまい。労働界の民主化は、これもまた「戦後政治」の中心課題であった。これは、敗戦という未曽有の不幸が無ければ実現しなかった。そして正にそのこと、すなわち「戦後政治」ゆえに、安倍晋三氏を中核とする「戦後政治の総決算」の血祭りに言挙げされるのでもある。入国管理令改定問題は、改憲策動と同根の政治的アクションであり、この国の住み憂さに通底する政治イシューである。
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