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2018-11-30 13:08

わが国における難民受け入れ問題を考える

倉西 雅子  政治学者
 突然に事実上の移民受け入れ政策へとその方針を転換した日本国政府は、今度は、難民の受け入れ枠を拡大する方向で検討を開始したそうです。こうした方向性には、何としても日本国を多民族国家に変貌させたい強い意志が感じ取れます。同報道において注目すべきは、検討されている課題の一つが、難民数の受け入れ枠の拡大に留まらず、送り出し国に関してもその範囲を拡大させようとしている点です。2010年から開始された国連の定住難民制度にあって、日本国政府は、ミャンマー難民を受け入れてきました。しかしながら、今回の措置では、ミャンマー以外のアジアの諸国の難民にも広げるとされています。それでは、このアジアの諸国とは、一体、何処の国を想定しているのでしょうか。

 第一に推測さるのが、シリア難民です。広義においては中東諸国も‘アジア’に含まれますので、日本国政府が想定しているのはシリア難民である可能性もないわけではありません。シリア難民をめぐっては、ドイツのメルケル首相が、これもまた突然に難民受け入れを表明したことから、ドイツ国内のみならず、EU加盟諸国をも巻き込む大問題へと発展した経緯があります。先日実施されたバイエルン州における議会選挙にあっても、反移民・難民政党であるドイツのための選択が支持率を伸ばしており、ドイツ国内の政治地図を塗り替えるほど、シリア難民受け入れ問題の余波は、現在、むしろ大波となって押し寄せています。移民・難民反対の国民の声を前にして、メルケル首相の長期政権にも黄信号が点ることとなったのですが、反移民・難民の現象は、ドイツに留まらずに今日のヨーロッパ政治の特色とも見なされています。この結果、今後は、ヨーロッパ地域における難民受け入れ数は減少するものと予測されますので、国連やUNHCRといった国際機関が、難民受け入れ数の少ない日本国に対して、受け入れ枠を拡大するよう圧力をかけてきているのかもしれません。

 現状にあって第二に可能性が高いのは、チベット難民やウイグル難民です。目下、中国政府がチベット人やウイグル人に対して公然と‘ジェノサイド’が行っていることは周知の事実です。ところが、これらの人々が非人道的な手段による弾圧と迫害を受けているにもかかわらず、日本国政府は、中国に対する政治的な配慮からか、積極的に難民資格を認定してきませんでした。今般、アメリカをはじめ各国において中国の人権弾圧行為に対する批判が高まっており、この流れを背景に日本国政府も、対中牽制の手段の一つとしてこれらの人々に対する難民認定に踏み出す可能性があります。もっとも、習独裁体制に対する権力層内部、あるいは、国民の反感から中国で動乱が発生するような事態ともなれば、‘中国難民’なるものもあり得るかもしれません。そして、第三の可能性として指摘し得るのは、朝鮮半島からの難民の受け入れ準備です。日本国内には、既に朝鮮戦争時における難民が多数在日韓国・朝鮮人として居住しているのですが、その多くが密航者であったこともあり、正式に日本国政府から難民認定を受けているわけではありません。そこで、今般の措置は、米朝首脳会談の努力も空しく北朝鮮の核・ミサイル問題が行き詰まり、近い将来、米軍による朝鮮に対する軍事制裁があり得ると判断し、事前に法的根拠を整えようとしているのかもしれません。つまり、日本国政府は、朝鮮半島からの戦時避難民の大量発生を想定し、その準備として受け入れ国拡大の方針を打ち出しているのかもしれないのです。

 以上に主たる送り出し国について推測して見ましたが、ヨーロッパ諸国を反面教師とすれば、何れの出身国であっても、日本国民の多くは難民の受け入れ拡大には反対のはずです。ましてや国連の第三国定住制度ともなりますと、難民認定と同時に、永住資格、あるいは、国籍を与えるようなものでもあります。日本国政府は、人口減少に直面している地方を定住先としていますが、受け入れ側の地方自治体も困惑することでしょうし(EUによる加盟国に対する難民受け入れ枠の設定が加盟国の反発を買った構図に類似)、過疎地であるが故に、出生率差による将来における人口比率の逆転もありえます。受け入れ人数そのものについても決まっておらず、現在が30人程度ですので、倍増したとしても60人ほどと少人数ではあるのですが、日本国政府は、受け入れ先の地方自治体に対して環境整備を促しているそうですので、将来において難民が大量に発生した場合、当該地方自治体が、当制度の枠外にあっても難民一般の収容地として指定される可能性もあります(地方自治体を対象とした移民・難民受け入れ態勢の整備促進の方が真の目的かもしれない…)。政治難民であればこそ、一時的な保護を与えたとしても、いずれ政治的な混乱が収束した段階で出身国に帰国させるべきであり、少なくとも同制度の下で難民の受け入れ拡大を進めることには慎重であるべきなのではないかと思うのです。
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