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2018-10-26 23:17

英中および英欧関係に関して三船恵美教授に質問

河村 洋  外交評論家
 駒澤大学教授の三船恵美先生による本欄への寄稿「中国・欧州関係から日本の安保への影響を考える」(10月15日ー16日付掲載)で取り上げられたブレグジットと対中安全保障について質問させていただきます。三船先生の投稿では武器輸出の問題が中心に述べられていましたが、英中間には原発問題をはじめ多くの安全保障問題があります。そしてブレグジット如何にかかわらず、英中の問題はヨーロッパ全体の安全保障に大きな影響を及ぼすと思われます。この問題に関しては本欄に2015年11月25日付けの拙論稿を連載寄稿したこともあり、大いに関心を抱いています。

 第一点は対中関係におけるブレグジットの二律背反性とイギリス政局の動向についてです。三船先生がご指摘の通り、ブレグジットがヨーロッパ諸国の中国に対する連携を弱体化させる懸念があります。その一方でイギリスの政局を見ると、逆の動きもありました。ブレグジット前のキャメロン政権においてはジョージ・オズボーン財務相という名うてのパンダ・ハガーが英中関係緊密化の音頭取りをしていました。当時のイギリスはヨーロッパ諸国の先頭を切ってAIIB加盟を表明しただけでなく、オズボーン氏は軍部や情報機関などからの強い懸念の声を強引に押し退けてヒンクリー・ポイントおよびブラッドウェル原子力発電所の再建を中国に託しました。当時のオズボーン財務相はデービッド・キャメロン首相後継者の最有力候補であり、保守党の諸議員も彼の親中路線に追従していました。皮肉にもブレグジットによるキャメロン政権退陣により、オズボーン氏も一議員に下りました。しかしながら、ブレグジットをめぐるメイ政権の混乱と人民元を金融市場で取り扱いたいシティの利権を考慮すれば、英政界において親中派が巻き返してくる懸念はないのかという点について三船先生の見解をお伺いできれば幸いです。

 第二は中国が請け負った原発再建がイギリスおよびヨーロッパ全域の安全保障に及ぼす影響についてです。テリーザ・メイ首相はキャメロン政権で内相を務めていたこともあって、中国による原発受注に対する懸念を情報機関と共有していました。しかしメイ政権に代わったからといって前政権が外国と成した合意を容易に覆せるわけではありません。ブラッドウェル原発については中国が全額出資するのでイギリス政府の出資は求めないとの条件には、中国によるイギリスの原子力産業支配との懸念の声が挙がっています。中国にはイギリスでの原発再建事業を契機に世界の原子力産業で支配的な地位を築こうとしていると言われます。中国が一帯一路政策に基づいてヨーロッパに築きつつある拠点の内、最も危険視すべきはイギリスでの原発ではないかと私は考えています。それは原発と核兵器の関連、そして両原発が中国のスパイ拠点になる可能性があるためです。中国に対する航行の自由作戦で大きな役割を担うイギリスに、そのような拠点が存在することは由々しき事態と思われます。以上より、両原発が中国の一帯一路構想およびヨーロッパの安全保障に与える影響について、三船先生の見解をお伺いできれば幸いです。

 第三はブレグジットがヨーロッパ諸国の共同防衛に及ぼす影響についてです。三船先生の寄稿文の通り、イギリスの政局がどうあれ域内で最強の軍事大国のEU離脱によってヨーロッパの共同防衛が弱体化することは否めません。現在のヨーロッパでは従来からのロシアとイスラム過激派に加え、一帯一路構想でこの地に進出してくる中国という三つの勢力が主要な脅威になると思われます。そうした中でアメリカのドナルド・トランプ大統領はNATO防衛に消極的かつ懐疑的な言動を繰り返しています。となるとブレグジットがあってもイギリスをヨーロッパ共同防衛体制に留めておく必要性が増すと考えられますが、現実にはEU側の対応は案件ごとに違っている模様です。例えば次世代戦闘機FCAS(Future Combat Air System)計画ではイギリスは除外され、独仏両国が中心になって開発が行なわれることになりました。他方でフランスのエマニュエル・マクロン大統領は自らが提唱する欧州共同対外介入軍にイギリスを積極的に迎え入れ、実際に他諸国とともにこの合意への署名にいたっています。そうした中で中国に対するイギリスとEUの共同防衛体制も分野によって異なってくると思われます。それは武器禁輸の他に中国からの域内投資、情報活動、サイバー戦から南シナ海での航行の自由作戦への参加まで多岐にわたると思われます。こうした各分野で、ブレグジット後も対中安全保障での英欧協力がどの分野で進み易いあるいは進み難いか、先生の見解は如何でしょうか?ヨーロッパと日本の対中安全保障について、以上3点、先生のご考察を伺えれば幸いです。よろしくお願いいたします。
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