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2018-08-28 10:15

アメリカの新聞にならえ日本のジャーナリズム

伊藤 洋  山梨大学名誉教授
 「気に入らない報道機関を<人民の敵>と批判するトランプ米大統領に対抗し、米国の多くの新聞が16日、報道の自由を訴える社説を一斉に掲げた。有力紙ボストン・グローブズの『米国の偉大さは、権力者に対して真実を突きつける自由な報道機関に支えられている』という呼びかけに、週刊紙など今後の掲載も含めて380紙以上が賛同しているという」(『朝日新聞』2018年8月17日付)。

 とかくその発言が物議を醸すトランプ大統領。その当然の帰結として受ける批判を嫌って、特に、ニューヨーク・タイムズやワシントンポストなど新聞や、ケーブルテレビのCNNなど彼を批判的に報じる報道機関に対して「フェイク」のレッテルを貼りつけ、さかんに攻撃(口撃?orツイート撃?)をつづけてきた。この男、支持者の集会などでもメディア批判を大声で叫んで、こうした主張は支持者の間にそれなりに浸透してきていたらしい。それが何より証拠に、アメリカの黒人や移民・マイノリティなどへの差別的主張を支持する国民のパーセンテージがここ1、2年の間に急増しているという。

 そもそもアメリカのメディアは独立独歩の精神が旺盛で群れないのを特徴としてきた。それが、今回のように一紙の呼びかけに応じて多くの紙誌が賛同して報道の自由を主張することは珍しい。現に、よろずトランプに批判的なワシントン・ポスト紙は「組織的取り組みには加わらない」として敢えてこの呼びかけそのものには同調していない。自紙がする「大統領批判」は自社の社論として批判しているのだというのであろう。クウォリティ紙の矜持と言ってよい。そもそも、1791年アメリカの修正憲法第一条は「議会は、国教の樹立を支援する法律を立てることも、宗教の自由行使を禁じることもできない。表現の自由、あるいは報道の自由を制限することや、人々の平和的集会の権利、政府に苦情救済のために請願する権利を制限することもできない」とある。さすがに一連の動きに黙っていられなくなった米国上院は、8月16日、「報道機関は人民の敵ではない」とする決議を全会一致で採択した。

 呆れた大統領を選んでしまったとはいえ、日本よりましなのは、アメリカ議会にはまだこういう「知性」が残っている。それに比して我が日本では、「麻生太郎・副総理兼財務相は24日、新潟県新発田市で講演し、自民党支持候補が勝利した10日の同県知事選を引き合いに、自民支持が高いのは10~30代として、『一番新聞を読まない世代だ。新聞読まない人は、全部自民党なんだ』と持論を展開した」(『朝日新聞』2018年6月25日)。この御仁は別のところで新聞を読まないと告白しているから、世事に思いを致すことが無く、それを衆参両院が批判したという話も聞かない。また、日本のジャーナリズムはそもそも根本のところで批判精神が乏しく、第三の権力としての役割を果たしているようには見えない。トランプ米政府類似の安倍政権下、日本のメディアもアメリカの新聞の矜持に学んでもらいたい。
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