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2018-08-14 08:10

首相、「改憲」軸に政局運営へ

杉浦 正章  政治評論家
 総裁3選後をにらんで、自民党総裁・安倍晋三が12日、憲法改正戦略を一層鮮明にした。改憲案の「次の国会提出」を明言したのだ。安倍の5年半を超えた政権では経済は長期にわたり景気を維持し、外交安保でも積極路線で日本の存在感を高めており、大きな失政もない。自民党内は3選で政権を継続させることに依存も少ない。9月の総裁選は、石破茂が立候補しても安倍の圧勝となる方向は事実上確定しており、求心力は「改憲」軸に維持されよう。新聞や民放はただ一人の対立候補石破が安倍総裁との一騎打ちになるとはやし立てるが、「一騎打ち」とは 敵味方ともに1騎ずつで勝負を争うことである。結果としてそうなったにしても彼我の力量の差は歴然としており、アリが巨像に向かう事を一騎打ちとは言うまい。なぜアリ対巨像かといえば、まず自民党内の議員勢力に雲泥の差がある。安倍支持は自派の細田派(94人)を筆頭に、麻生派59人、岸田派48人、二階派44人、石原派12人と圧倒している。石破支持は同派の20人と参院竹下派の21人程度に過ぎない。前回安倍が大敗した地方票も、安倍自身の地方行脚で基礎を固めており、支持も広がっている。陳情一つとっても石破では話が通じないからだ。今回の総裁選は、まるでプロスポーツの“消化試合”の様相だ。

 長期政権はその求心力をいかに維持するかが最大の問題となる。7年半続いた佐藤栄作政権は「沖縄返還なくして選後は終わらない」をキャッチフレーズに求心力を維持した。安倍の叔父の佐藤は72年5月の返還実現を見て、同年7月に退陣している。安倍はここに来て自民党結党以来の悲願である憲法改正を推し進める姿勢を鮮明にしている。12日の講演で「憲法改正は全ての自民党員の悲願であり、その責任を果たして行かなければならない。いつまでも議論だけを続けるわけにはいかない」と改憲発議への姿勢を明確に打ち出した。改正の焦点は「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」という9条2項だ。まぎれおなく羹(あつもの)に懲りた米占領軍の影響下にある条項だが、独立国の常識としてまさに噴飯物の内容を構成しているといえる。

 自民党は今年の春に戦力不保持を定めた9条2項を維持した上で、「9条の2」を新設して自衛隊を明記する案を固めた。これは安倍のかねてからの主張に沿ったものだ。安倍は2項を維持した上で、自衛隊の合憲を明確にするとしている。自衛隊を憲法に明記して古色蒼然たる違憲論争に終止符を打とうとするものだ。国内の違憲論争に決着を付ける意味は大きく、世界の標準に合致することになる。これに対して石破は「2項を削除して自衛隊の保持を明記し、『通常の軍隊』と位置づける」としており、首相と「維持と削除」で決定的な差がある。石破の削除案には党内右派の一定の支持はあるが、首相案の方の支持が大勢の流れとなっている。加えて大規模災害時などに政府による国民の生命・財産の保護義務を明確にする緊急事態条項も創設される方向だ。

 自民党が総裁選での最大の焦点に改憲問題をテーマとするケースは珍しい。これは自民、日本維新の会など改憲勢力が衆参両院で必要な3分の2を占めていることが、現実味を帯びさせているのだろう。安倍戦略は、9月の総裁選を機に改憲への基盤を固め、秋以降の国会を改憲にとって千載一遇のチャンスと位置づけ、自民党の改憲案を提示し、通常国会での発議に持ち込む構えであろう。そして2020年の新憲法施行へとつなげたい考えのようだ。この結果、最大の政治課題は、既定路線の3選そのものにはなく、3選後に何をやるかに焦点が移行しつつあり、改憲は佐藤が沖縄返還で最後まで求心力を維持したこととオーバーラップする。ただ、連立を組む公明党は来年の参院選を控えて慎重論が強く、安倍の憲法改正発言に警戒を強めている。今後折に触れ、クギを刺したり、横やりを入れる動きを見せそうだ。野党も立憲民主党や国民民主党を中心に警戒論が高まろうとしている。
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