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2018-07-19 13:26

財政が背負う三重苦を乗り切れるか

中村 仁  元全国紙記者
 西日本の豪雨災害の総被害額は1兆円を上回るそうです。相次ぐ台風・豪雨災害に加え、何年かに一度の周期で震災が発生しています。さらに北朝鮮の非核化費用の分担、米国から要請されている国防予算の増額や非核化費用も待ち構えています。日本の財政はすでに先進国最悪といわれ、そこに新たな負担が覆いかぶさってきます。どうするのでしょうか。恒常化するばかりでなく、年々、規模が大きくなってきた異常気象災害、いつ発生してもおかしくない大震災、米国が同盟国の分担を増やそうとしている国防費が上乗せされると、日本の財政の窮状はさらに進みます。本来なら、こういう事態に備えておかなければならないのに、安倍政権は人気がない財政再建計画を先送りしてきました。支持率と選挙のことを最優先しているためです。

 最近、自然災害は年中行事化しています。2011年の東日本大震災、13年の台風26号(伊豆大島など)、15年の台風18号(関東、東北)、16年の熊本地震、17年の九州北部豪雨、18年6月の大阪北部地震、そして今回の西日本豪雨(日経新聞11日)です。先進国の中で日本ほど、災害の多い国はない。最も恐れるべきは今後30年以内の発生確率が7、80%といわれる南海トラフ地震(被害額170兆円)、首都直下地震(同47兆円)です。阪神大震災は発生後、20年間で経済被害は88兆円に達しました。南海トラフ地震は同1400兆円、首都直下型は同780兆円に達すると推計(土木学会)されています。7月13日の朝刊によると、土木関係の識者が自分たちの出番が巡ってきたとばかり、「国を挙げて治水対策を急げ」(藤井京大教授、読売新聞)と、主張しています。洪水や土砂災害対策の必要性を列挙しています。藤井教授はかねてから強硬な財政膨張主義者です。財政節度派の吉川東大教授との論争では、「財政の基本が分かっていない」と、何度もたしなめられています。

 問題は財源をどう確保するかです。「住宅ローンのようにまず対策を完了させてから、対策の恩恵を受ける将来世代も、費用を公平に負担する」と、藤井氏はおっしゃいます。財政でカバーするのが災害対策費だけならともかく、日本の財政はすでに1000兆円もの国債を発行し、将来世代の負担になります。将来の負担は減らさなければならない時なのに、この論者は逆に「増やせばいい」というのです。懸念すべきは、財政再建計画の黒字化目標(基礎的収支の黒字転換)を当初の20年度から25年度に先送りするなど、政権に財政の健全化に対する悲壮感がないことです。まるで平時がずっと続くような感覚なのですね。異常気象は恒常化し、震災の発生は切迫、さらに北朝鮮の非核化費用、防衛予算の増大がのしかかってくるのに、「なんとかなるのではない」という感覚です。

 日本は自国で国債のほとんどを消化している。家計の金融資産は1800兆円もある。経常収支の黒字が続いている。だから安心だという楽観論が目立ちます。かりに首都直下型大震災が起きれば、復興、復旧に必要な財政資金(国債)を調達するために、外債を発行しなければならなくなるかもしれません。今のような限りなくゼロ金利による発行とはいかなくなるでしょう。そういうことを想定して、財政状態を健全にしておき、日本国債を海外で発行しても、海外における市場金利で消化されるようにしておくのが政治の役目です。年末に決まる19年度予算は初めて100兆円を超えそうです。さらに4・4兆円の「特別枠」も設けます。せっかく消費税を10%(19年10月)に引き上げても、税収増の半分を教育無償化に使います。財政が放漫になったら、通常の国なら市場金利が上昇し、市場が財政節度を求めることになります。日本では日銀が国債をほとんど購入し、ゼロ金利状態を保っていますから、国は好きなだけ国債発行(財政悪化)を出しても消化されてブレーキがかからない。だから危機感が生じないのです。みてくれだけ、実現可能性がまずないような財政再建計画を作るのではなく、巨大な緊急事態が発生したら、国はどう対応すべきかということを考えておくのが政治の責務です。
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