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2018-06-09 10:45

今後の日露関係の進展に必要なこと

飯島 一孝  ジャーナリスト
 安倍晋三首相とプーチン大統領による日露首脳会談は5月26日深夜、モスクワのクレムリンで行われたが、北方領土交渉での進展ばかりか、共同経済活動の具体化も進展がなく、無駄骨になったと言っても過言ではない。安倍首相にとってはプーチン氏と21回目の会談になるが、平和条約交渉の先行きは全く見通せないのが偽らざる現実といえよう。安倍政権はプーチン氏との個人的な信頼関係を足場に、プーチン氏が領土問題解決に踏み切ることを期待して首脳会談を重ねてきた。特に今回は、プーチン氏が大統領選で通算4選を果たした直後だけに、領土問題で思い切った政治決断を行うのではという甘い期待があったが、見事期待を裏切られた。世界を相手に強面外交を演じているロシアが、そんな甘い考えに乗るわけがなく、政権内部からも「前のめりになりすぎた」との声が出ているという。

 こうした結末は、5月25日に外国通信社代表団と会見したプーチン大統領の発言から十分予想できたはずだ。日露平和条約締結の見通しを質問した記者に対し、最初は「我々は相互に受け入れ可能な譲歩を見つけられるよう試みてゆく」と切り出しながら、具体的な解決策に触れると「どのようになるかは現時点では述べられない。それを話せるのなら、もう(平和条約に)署名しているだろう」と突き放した言い方をした。もはや、問題解決への意欲も期待も持っていないことを暗示した発言とも受け取れる。

 現に安倍政権が平和条約締結の突破口と位置付けている、北方領土での経済共同活動の前提になる「特別な制度」導入問題が一歩も進んでいないことからも明らかだ。このため、活動の重点5項目に挙げられたウニ養殖やイチゴ栽培の事業化も具体化までには至らなかった。記者会見で安倍首相はこの問題について「新しいアプローチのもと、平和条約に向け着実に前進する決意をした」と述べたが、単なる日本側の期待にすぎない。こうした期待をいつまでも国民の前にぶら下げて、世論をミスリードしていく手法はもうやめたほうがいいだろう。むしろ、いま日露の首脳が真剣に討議すべきは北朝鮮を中心とするアジア・太平洋の安全保障をどうするかだろう。こちらの問題についても両首脳は話し合ったというが、これまでの双方の立場を述べ合っただけといえなくもない。

 今安倍首相が問われているのは、誠実な言葉で政治・経済などの状況を国民に説明することだ。それをせずに、口先だけで誤魔化す発言をしているから、森友・加計問題などが沈静化するどころか、国民の不満が高まるばかりなのではないか。少なくとも「(我々は)一点の曇りもない」「政治を捻じ曲げるようなことは一切していない」などという無責任な発言は、今後一切して欲しくない。
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