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2018-05-15 06:29

今世紀最大の政治ショー米朝首脳会談

杉浦 正章  政治評論家
 米大統領ドナルド・トランプと北朝鮮の労働党委員長金正恩による、今世紀最大とも言える政治ショーが展開されようとしている。水面下での懸命の駆け引きから垣間見える焦点は、いちにかかって北の「核廃棄の度合い」と見られる。米国は北の核実験と核・ミサイルの完全なる廃絶を要求しているが、北は安全保障上の脅威を理由に20発と言われる核弾頭を手放す気配はない。さらに6月12日の首脳会談は、トランプが秋の中間選挙を意識して細部を詰めない妥協に走る危険を内包している。日本を狙う中距離核ミサイルなどは二の次三の次に回されかねない。日本は天井桟敷から大芝居を見物していてはならない。会談成功に向けて堂々と発信すべきだ。拉致問題は最大の課題だが、ここは関係正常化が先だ。早期の日朝会談が望ましい。歴史に残る米中極秘会談の立役者は大統領補佐官ヘンリー・キッシンジャーであった。1971年にニクソンの「密使」として、当時ソ連との関係悪化が進んでいた中華人民共和国を極秘に2度訪問。周恩来と直接会談を行い、米中和解への道筋をつけた。今回の立役者は国務長官マイク・ポンペイオであった。そのしたたかさはキッシンジャーに勝るとも劣らない。2回にわたる金正恩との会談で、おいしい“まき餌”をちらつかせて金正恩をおびき寄せた。ポンペイオは「北朝鮮が、アメリカの求める、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化に応じれば、制裁は解除され、北朝鮮で不足する電力関係のインフラ整備や農業の振興など、経済発展を支援する。アメリカ企業や投資家からの投資を得ることになる」とバラ色の未来を描いて見せた。さらにポンペイオは「アメリカは、北朝鮮が、韓国を上回る本物の繁栄を手にする条件を整えることができる」と北にとって垂涎の誘いをかけると共に、トランプ政権が、北朝鮮の金正恩体制を保証する考えも伝えた。軍事オプションは当面使わないという姿勢の鮮明化だ。

 これだけのおいしい話しに乗らなければ金正恩は指導者たる素質を問われる。元国務次官補カート・キャンベルも「これにより対話や協議に向けて新たな道が開かれ、少なくとも短期的には核拡散のリスクが低減し、粗暴な軍事オプションは後回しになるだろう」と展望した。金正恩は「非核化協議に応ずる」と飛びついたが、非核化にもいろいろある。米国が目標に掲げているのは「朝鮮半島の完全なる非核化」なのであるが、金正恩の狙いは現状のままで核開発プログラムを凍結し、その見返りに国際社会からの経済制裁を直ちに緩和させるというものだ。それは、米国が目標に掲げている朝鮮半島の非核化とは似て非なるものである。米国にとって非核化は、北朝鮮の核兵器プログラムと核兵器そのものの完全な破棄を意味するのであり、トランプは正恩との会談では核兵器の解体を速やかに進めるよう求めるだろう。この両者の見解の相違が事態の核心部分であるのだ。そもそも父の正日が1998年に核計画に着手して以来、金一族はプルトニウムを「家宝」のように営々として作り上げてきた。GDPが米国の1000分の1しかない国が、国家よりも自分や一族の体制を守る手段として核を開発してきたのだ。米下院軍事委員長マック・ソーンベリーが「これまで北朝鮮は米国を手玉に取ってきた。大統領は過度の期待を慎まなければならない」と看破しているがまさにその通りだ。核イコール金王朝の存続くらいに思わなければなるまい。
 
 こうした状況下で開催されるトランプ・金会談の焦点はどこにあるのだろうか。まず第一に挙げられるのは金正恩が米国や国際機関による完全な形による検証に応ずるかどうかだ。坑道には水爆実験用に新たに掘ったものもあるといわれる。それを完全に破壊するかどうかが疑わしいといわれている。坑道の入り口だけを破壊して、完全破壊を装う可能性があるからだ。また北が主張する「ミサイル開発計画の放棄」は何の意味もない。現状が固定されるだけに過ぎないからだ。既に保有するミサイルと核爆弾の解体が不可欠なのだが、金正恩が「核大国」と自認する以上、容易に核を手放すことはないだろう。こうした核問題と並行して、極東の平和体制を構築するために、米政府内には休戦協定を平和条約に格上げする構想がある。休戦協定は1953年7月27日に署名され、「最終的な平和解決が成立するまで朝鮮における戦争行為とあらゆる武力行使の完全な停止を保証する」と規定した。しかし、「最終的な平和解決」(平和条約)は未だ成立していない。朝鮮戦争の休戦協定は北朝鮮、米国、中国の間で署名されているが、韓国は署名していない。平和条約実現のためには、まず米朝で終戦を宣言し、ついで南北で終戦を宣言する。そして韓国、北朝鮮。米国、中国で平和条約に署名し、これに日本とロシアが加わって最終的には6か国の枠組みで平和条約を確立させる方式が考えられる。

 こうした構想は確かに極東情勢が行き着くべき終着点だが、ことはそう簡単ではあるまい。紆余曲折をたどるに違いない。今後5月22日に米韓首脳会談。5月26日に日露首脳会談。6月8、9日に韓国も参加する可能性があるカナダでのサミット。そして6月12日の米朝首脳会談へと激しい外交の季節が続く。モリだのカケだの政権を直撃することのない話しに1年以上もこだわる野党も、時代を見る眼を問われる。集中審議に応じた自民党執行部の見識のなさも尋常ではない。集中審議なら米朝会談をテーマとすべきではないか。野党も議論に参加すべきである。安倍は12日の会談結果を早期にトランプから聞く必要があろう。日朝関係は経済支援を米国が日本に頼る意向を示していることから、日本の対応がクローズアップされる時期が必ず来る。日本は拉致問題を抱えているが、生存すら不明な拉致問題に拘泥していては物事は進まない。ましてや拉致問題の解決をトランプに頼んでも二の次三の次になることは否めない。いったん棚上げして日朝関係を正常軌道に乗せた上で、解決を図るべきだろう。日朝関係を拉致問題調査団を派遣できるような状態にしなければ、未来永劫に拉致の解決はない。
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