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2018-04-06 12:14

「一帯一路」に潜むテロのリスク

山崎 正晴  危機管理コンサルタント
 2017年12月、政府は中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する「民間経済協力のガイドライン」を策定した。これは、安倍晋三首相が同年11月、ベトナムでの中国の習近平国家主席との会談で、「第三国でも日中のビジネスを展開していくことが、両国だけでなく対象国の発展にも有益」との認識で一致したことを受け、日本企業の一帯一路プロジェクトへの参加を後押しする目的で、首相官邸と外務、財務、経済産業、国土交通の4省が共同で作成したものだ。ガイドラインは、具体的な協力分野として、「省エネ・環境協力の推進」「産業高度化」「アジア・欧州横断での物流利活用」の3つを挙げ、政府系金融機関による融資などの支援をするとしているが、一帯一路プロジェクト参加に伴う「リスク」については触れられていない。一帯一路プロジェクトが、借り手が返済しきれないほどの高額な融資を行い、返せない場合は担保として、完成した港湾、発電所などのインフラ施設を乗っ取るという悪徳高利貸も顔負けの商法であることは徐々に知られつつある。

 これまでに、パキスタン(ダム建設、140億ドル)、ネパール(水力発電所、25億ドル)、ミャンマー(ダム建設、36億ドル)が「国益に反する」との理由で、いったんは調印した大型プロジェクトのキャンセルまたは延期を申し出ている。中国政府は、「一帯一路」構想は純粋に商業ベースのもので、相手国の政治には一切口を出さないとしている。この方針は、一見良心的なように聞こえるが、別の見方をすれば、相手が独裁者でも汚職まみれの政権でも「契約条件さえ合意してくれれば、いくらでも融資しますよ」ということになる。その結果生まれるのは、独裁者や権力者だけが利益を独占し、一般国民は貧困と破壊された環境の中に取り残されるという典型的なテロの温床だ。日本では全く報道されていないが、一帯一路プロジェクト実施国では中国人を標的としたテロや誘拐が多発している。以下その事例である。

 (1)2016年8月30日、キルギスの首都ビシケクにある中国大使館のゲートに爆発物を積んだ車が突っ込み、運転していた男は死亡、大使館の現地職員3人が負傷した。キルギス政府の発表によると、自爆犯はシリアに本拠を持つイスラム過激集団に所属するウイグル人だった。(2)2017年5月24日、パキスタンのクエッタで、車で移動中の2人の中国人語学教師が警察官の服装をした武装集団により拉致。6月4日、過激組織「イスラム国」(IS)が2人の人質を殺害したとの声明とともに、射殺直後の写真を地元のジャーナリストに送り付けてきた。(3)2017年3月20日、南スーダンのジュバで、中国・マレーシア合弁石油会社のパキスタン人作業員2人とインド人作業員1人が反政府武装勢力により拉致されたが、同30日に全員無事解放。身代金支払いがなされたかは不明だ。(4)2017年10月5日、ナイジェリアの首都アブジャで道路検査中の2人の中国人技術者が誘拐され、身代金が要求された。10月11日に2人とも無事解放。人質の所属企業から身代金が支払われた。

 中国政府は、一帯一路プロジェクト関連で中国人がテロや誘拐の標的となる危険性を十分認識しており、既に人民解放軍出身者数千人を「民間」警備員として世界各地のプロジェクト現場に派遣している。日本政府には、日中関係改善という「国策」のために、プロジェクトに参加する民間企業とその従業員を犠牲にすることのないよう十分な配慮を望みたい。
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