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2018-03-10 07:00

(連載1)駐韓大使不在のトランプ政権と北朝鮮問題の行方

河村 洋  外交評論家
 北朝鮮危機において、太陽政策志向の韓国と圧力志向の日米との間の亀裂は深まる一方である。しかし韓国のムン・ジェイン大統領が選挙中から親北ぶりを発揮して日米韓3国の連携に不協和音をもたらしたからといって、彼を一方的に非難することは全くの間違いである。我々がもっと注意を向けるべきはドナルド・トランプ大統領による米政府、特に外交当局の運営の本質的な問題である。

 トランプ氏の大統領就任から政府要職の多くはいまだに埋まらないが、駐韓大使もその一つである。トランプ氏の悪名高きアメリカ第一主義を鑑みても、ムン大統領が朝鮮半島の安全保障に対するアメリカの関与に不安を抱いて北朝鮮との宥和に走っても不思議ではない。たとえ韓国の大統領がムン氏より親米であったとしても、この国は日米との連携強化よりも北と中国を相手にしたバランサー外交に傾斜してゆくだろう。私の目には朝鮮半島情勢に通じた者ほど、こうした基本的な点を見過ごす傾向があるように思える。

 資質の高い大使がソウルにいれば、米韓両国は北朝鮮政策を毎日のように詳細にいたるまで話し合うことができるだろう。合衆国駐韓大使の役割は青瓦台との政策討議だけにとどまらない。ソウル駐在のアメリカ大使はムン大統領の行動が域内の他の同盟国と共通の立場から離れることがないように、監視とコントロールを行なうこともできる。在韓米軍司令官では政治問題に関与することはできない。青瓦台に対して思いやりある相談であれ、無慈悲な圧力であれ影響力を行使できるのは大使である。

 忘れてはならぬ地政学的条件は、韓国は中国と同様に北朝鮮と隣接しているので半島の不安定化と自国領内への難民の大量流入を恐れ、ピョンヤンへの宥和に駆られがちである。アメリカの外交プレゼンスが強固であってはじめて、韓国がアジア太平洋地域の民主主義諸国との同盟関係を維持できるのである。トランプ政権は慌てふためいてマイク・ペンス副大統領をピョンチャン・オリンピック開会式に送り込み、韓国と北朝鮮の間に楔を打ち込んだ。さらに閉会式にはイバンカ・トランプ氏まで送り込んで、同氏が外交に従事する資格について厳しい批判が寄せられた。いずれにせよ両氏の滞在は数日に過ぎないが、大使がいればムン大統領とは毎日のように会談できる。

 トランプ氏が損益の観点から打ち出した国務省の予算および人員の削減という悪名高い計画に見られるように、彼の外交当局軽視の姿勢は酷く偏向したものである。しかし去る12月の新安全保障戦略で北朝鮮の重要性を強調していたのなら、トランプ氏はポピュリズムと損益思考に固執することなく、外交当局のプロフェッショナリズムの重要性を認める必要がある。こうした観点から、トランプ氏はキム・ジョンウンに対する外交的駆け引きと軍事的圧力の適正なバランスを再考する必要がある。トランプ氏としてはバラク・オバマ前大統領のマーク・リッパート大使の後任に、自分が任命した人物を韓国に赴任させたいのだろう。しかし彼が外交官集団の専門知識に敬意を払わない限り、自前の適任者など見つけられないだろう。ブッシュ政権で国家安全保障会議のメンバーであったビクター・チャ氏がトランプ氏の任命を受けなかったのも当然である。(つづく)
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