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2018-01-12 19:58

(連載1)2018年のロシア経済を占う

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 12月14日にプーチン大統領は数百人の内外記者を招いて、4時間近い記者会見を行った。この会見で興味深かったのは、第1に、大統領や政府と記者たちのロシア情勢に対する認識のギャップが浮き彫りになったことである。第2に、大統領や政府の政策に対して、国民の側は年金受給年齢や税金の引き上げなど国民に不利な政策が不意打ちの形で発表されるのではないかと疑っている。つまり、大統領や政府に対する強い不信感だ。2018年のロシア経済を占うためにも、経済に関して、政権や公式統計と国民や専門家の間の見解の違いを紹介したい。







 まず第1の認識ギャップについて。ロシア経済に関して、大統領や閣僚たちは公式統計を基にして国民に、不況は底をつきロシア経済は回復している、生産は増加している、今後ますます良くなるという点を強調する。しかし、国民生活を肌で知っている記者たちの発言からは、そのような大統領・閣僚の発言や公式統計をほとんど信じていないことがはっきり読み取れる。例えば、「ロシースカヤ・ガゼータ」の記者は、次のように公式統計を疑う直球の質問を投げかけている。「政府や経済発展相などは常にロシア経済が回復傾向にあると言うが、何によってロシア経済は発展しているのか。<水増し報告>によってか。それとも本当にトラクター、機械類、コンピューターなどを以前よりも多く生産しているのか」。







 この質問に対してプーチンは、次のように反論する。「ロシア経済は実際に発展していることは明白な事実だ。水増し報告などはない。わが国のGDPの伸び率は1.6%、工業生産の伸び率も同じく1.6%で、特に良好なのは自動車工業、化学工業、製薬、それにもちろん農業だ。今年も過去最高の収穫となるだろう。農業相の言によると、穀物の収穫高は1億3050万トン以上の予定で、これはソ連時代を含め史上最高の収穫となる」。この生産発展の背景として、プーチンは次のように説明する。「ロシアの経済発展はますます多く内需に依拠するようになった。GDPの伸び率は1.6%だが、基本投資の伸び率は4.2%で、生産の伸び率の2倍以上のテンポで投資が増えている。これが意味することは、今後、中期的にも発展が確実になっていることだ」。







 しかし、国民の生活実感や専門家たちの経済分析は、しばしばプーチンや政府の発表と真っ向から対立する。例えば、油価下落の影響をもろに受けて、ロシアにおける自動車の需要と生産が大幅に下落したことは周知の事実だが、「マクロ経済分析・短期予測センター」の責任者はプーチンとは逆に、内需の減少とそれに伴う自動車生産の減少などを次のように具体的に指摘している。「内需が少ないので、ロシアに生産拠点を移した企業も、製品を販売する市場がない。国民の実質所得は低下しており、それに伴い需要も小売市場も縮小している。例えば車の生産も、需要減により生産設備の稼働率も平均して50%にすぎない」。ロシア・フォルクスワーゲングループ総支配人やフィンランドのタイヤ生産メーカーの責任者も、メドベジェフ首相との懇談の場で「今のロシアの経済状況で、生産拠点をロシアに移すとか増設するのはナンセンス」と述べている。(「ヴェドモスチ」2017.10.16)このギャップについて記者会見の場で、「ガゼータ・ルゥ」の記者がやはり次のようなストレートな疑問をプーチンに投げている。「あなたの諸答弁を聞いていると、率直に言って、次のような印象を持たざるを得ない。つまり、あなたに対して、ときに、事態に関する不正確な情報が与えられている、ということである。少なくとも経済に関しては、そのような印象を受ける」。(つづく)
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