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2017-12-04 10:11

北朝鮮と日本の安全保障についての一考察

松井 啓  時事評論家、元大使
 北朝鮮は11月29日未明、新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星15号」を発射し、国際社会を震撼させた。同ミサイルは日本の青森県西方の日本のEEZ(排他的経済水域)に落下したが、この新型は首都ワシントンを含む米本土全体を射程内に含み核弾道が搭載可能と観測されている。北朝鮮の攻撃目標はあくまで米国であり、今回のミサイル発射を受けて、米国もようやく本腰を入れて北朝鮮問題に対応しようと、最前線の韓国との間で、最大規模の共同軍事演習を展開している。これにより北朝鮮の核問題は第一義的には米韓の問題となったといえ、日本が前面に出る必要はなくなった。

 一方、北朝鮮と国境を接する中国とロシアは対米外交上この独裁国家を自己の外交カードとして保持しておきたく、国連決議による対北朝鮮制裁には人道主義を理由にギリギリまで追い詰める処置をとっていない。板門店における北朝鮮兵士の脱北や北朝鮮小型漁船の日本海岸への漂着など経済的逼迫ともみられる事例が出てきているが、体制の変革につながると予測することは早計であろう。アラブの春が多くの国で民主化に失敗したのは主要関係国間で既存政権崩壊後の体制について事前に合意ができていなかったことにある。すっきりとした解決策はなく拙速は禁物である。結局のところ、中断している六者協議に北朝鮮を戻らせ、この国の政治・経済体制の在り方につき合意を形成していくしかない。忍耐強い交渉を覚悟すべきであり、その過程で日本が果たせる役割を見出すこともできよう。

 今年のノーベル平和賞に決まった国際NGO・ICAN「核兵器廃絶国際キャンペーン」は、核兵器による人類初の被爆国である日本に対して核兵器禁止条約に参加するよう強く呼びかけている。日本国内でも日本が核兵器所有国と非所有国との間の橋渡し役となるべきとの原水爆被害者団体協議会などの意見も強い。日本にとっての核兵器の脅威は中国でもロシアでもなく北朝鮮である。そうであれば日本にとって米国の傘(核抑止力)は必要なのであろうか。北朝鮮は核搭載でないミサイルでも十分に日本を攻撃できるし、日本も法的軍事的安全保障体制を十分に整備さえすれば敢えて米国の傘に頼る必要はないのではないか。

 他方、中国は「一帯一路」政策でユーラシア大陸及び海のシルクロードで権益拡大を図り海軍力を増強している。日本はEEZを含めれば世界第6位の海洋国家であるが、現在の海上自衛隊では多くの離島を含む広大な地域の海洋資源保護や安全保障を維持することは困難である。海上自衛隊の一層の拡充が必要である。更に、日本はGNPで中国に抜かれ、国際社会における経済的プレゼンスは落ち込んでいるだけに、「インド太平洋戦略」により日本周辺、東シナ海、南シナ海地域の法の支配に基づく、市場経済を重んずる自由で開かれた海洋秩序の維持が重要である。日本は今後、米国、東南アジア諸国、オーストラリア、インド、イギリス(日露戦争時には日英同盟があった)との緊密な協力と連携を一層推進すべきである。
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